二月九日(日)辛亥(旧正月十日) 晴れ 

まゐりました。。雪かきですよ。「雪やこんこ、霰(あられ)やこんこ」なんて、調子はいいですが、あと片づけがたいへんでした。朝食後、外に出ると、すでにご近所の方々は道路に出てゐて、それぞれ自分の家の前の雪をかいてゐました。我が家は角地なので、二面、いや、通用路もあるので、要するに四方すべての通路を確保しなければなりません。通用路は人が通れればいいので、カクスコ(先の平たいスコップ)の幅で一直線かき寄せればすみましたが、道路のはうはさうはいきません。特に、ご老人一人住まひの方の家の前は、戸口から道路までの通行も確保してあげなければなりません。気を使ふのですよ。

いや、指を折りながら数へてみると、ご近所の一人住まひの方は、すべて女性。濱口さんに、尾池さん、下澤さんに、清水さんに、鑓水さん。尾池さんは九十なかば、濱口さんが九十一。下澤さんは母と同い年。そのお子たちは、みなぼくの幼なじみといふことになります。みんな甲斐庄があるもんで、それぞれ独立して家も建て、ご立派な生活をなされてゐるのであります。不甲斐ないぼくだけが、出戻りで、父母の建てた家にやつかいになつてゐるわけでして、まさか、ご立派な幼なじみの母上様方のお世話をすることになるとは、お釈迦様、もとへ、神様もご存知あつたんでせうか? きつとあつたんでせうね!

 

 雪かきのおかげで、息が切れました。汗もかきました。ラムちやんもお疲れのやうで、昼からは共にゆつくり横になつて休みました。ほつとします。でも、そこがぼくのぼくたるところ。『江戸かな入門』を横になつても放しませんでした。実にむづかしいのです。といふか、小さな字で、しかも上下左右くつついてゐて判読しにくいのです。筆書きではなく、版本なんですよ。どうせなら、わかりやすく、きれいに彫ればいいと思ふんですが、さう、劇画風の繪のはうが主なのかも知れません。解読するのに汗が出るんです。額に神経が集中してくるといふんでせうか。だから、数字読んでは休み、数行読んでは本を置きして、数ページも読めませんでした。

 

夕食後、今日最後の散歩に出かけました。冷え込んできました。明日の朝、雪が凍つてしまふのが怖いです。ラムは、よほど雪が好きなんでせう。かいてあるところをさけて、わざわざきれいに雪が積つた所に入つて行くんです。それにしても、我が下町、小さなアパートが多いんですが、その前の道路だけが、雪が残つてゐるんですね。毎日顔を合はせてゐる方々とは、まあ、責任感のやうなものが生まれてきてゐますから、せめて自分の家の前くらゐの始末はつけますが、アパートだと、大家が近くならばいいけれど、住んでゐる方たちは、どうしてもだれかがやるだらうとなつてしまふのでせう。問題は明日ですね。

そして、かういふ言ひ方はわるいけれど、地に足をつけてゐないやうな人々によつて、大都会東京が占められ、その選挙の票が動かされるのかと思ふと怖い気がします。明日が危ぶまれます。 

 

今日の写真:我が家と朝の町内。ぐつたり寝のラム。『江戸かな古文書入門』の「草双紙を読む」の章より。