三月十九日(水)己丑(旧三月十九日) 晴れのち曇り

石沢英太郎著『秘画殺人事件』(徳間文庫)読了。久しぶりのミステリー小説でした。たしかに面白いミステリーでした。タイちやんが、「オレにとってこのミステリーは、浮世絵に関しての教科書でもありました。」と言ふとほり、ぼくにも勉強になりました。

舞台は日本とフランスの両国にわたつてゐます。そこで気づいたのは、「浮世絵」についての評価の問題です。「浮世絵を秀れた民族芸術と認識しているのは、当の日本人より、アメリカ・フランスなどの外国人の方が上回っている。それが証拠に、日本の浮世絵の価値をいち早く発見したのは外国人だ。」とも、「浮世絵の秀作が外国に流れたのは、その価値を発見することができなかった日本人の不明から来ている。」ともいはれてゐることです。

が、まあ、さうは言ひ切れない時代的な側面もあつたと思ひます。富国強兵を謳つて、江戸時代を否定的にしか見なかつた明治時代の風潮があつたでせうし、あまりにも身近な浮世絵に価値を見いだせなかつたであらうことも想像できます。しかし、また、「だから、痩せ我慢ではないが、その日本の精華たる浮世絵が、(海外の多くの)美術館に堂々と飾られ、一種の日本の美術使節としての役目を果していると考えれば別に憂う筋はない。」といふ言葉は新鮮に感じました。

でもね、浮世絵を研究するためには、アメリカはじめヨーロッパ諸国に行かなければならないといふのは、どうにも腑に落ちないですよね。それで、第一次大戦中といひますからだいぶ前のことですが、外国から買ひ戻した例としてあげられてゐるのが、松方(幸次郎)コレクションです。フランスのヴェヴェールといふ収集家から、浮世絵、なんと七九九六点を買戻し、後に宮内省に献納され、そして、「いまの東京国立博物館の浮世絵のほとんどが、この松方コレクションといわれています」。これは、是非とも見に行かなくてはなりません!

それと、また、本書で絶賛してゐる、秘画の三大傑作といふ、喜多川歌麿の“歌まくら”、鳥居清長の“色道十二番”、葛飾北斎の“波千鳥”も見たいです。北斎の“つひの雛型”も絶品といひます。見たいです。くづし字のお勉強にもなりますもんね!

外国人にいはれてその価値を発見するといふのは、浮世絵に限つたことではなく、あらゆる分野についていへることですけれど、日本人自身の目と心でそのものの価値を見出してゆくことも、温故知新、歴史を学んで現在を知ることの意味ではないかと思ひました。

 

今日の写真:そしてけふのラムと野良猫。気になる看板。お坊さん。