四月廿九日(火)庚午(旧四月朔日・朔) 晴れのち曇り、夜小雨

朝からなにやら危機感を覚えました。からだがまだがるいのです。このまま今日も横になつてゐたいとの誘惑がいつものやうに押し寄せてきましたが、いや、このままではほんとに横たわりきりになつてしまふぞといふ悪い予感に襲はれたのであります。

食欲もなく、どこかへ出かけようかといふ意欲も起こりません。それでも出かけようかといふ気になつたのは、ようやく風邪がおさまつてきた妻の一言でした。「悪い汗を流しに古本屋にでも行つてきたら」といふ、実に涙がでてしまふやうなありがたいお言葉でした。仕方なくパソコンの〈全国即売展情報〉を見ると、運よく、池袋でひらかれてゐるではありませんか。

それでも、いつものやうに気持ちが高揚してこないのは、やはり風邪の熱の後遺症でせうか。池袋西口公園についても、気持ちが晴れません。重いからだを引きずるやうにして、並ぶテントの下のワゴンを覘いて回ると、それでも向うからぼくの気持ちを刺激してくるものがあるのはありがたいことであります。最初に出会つたのは、『平安貴族と陰陽師』でした。が、ネットで買へさうなのは書名だけ控へて、次に進みます。結局、入手できたのは、和装本の『良寛禅師奇話』、「塵塚物語」や「見聞集」、「彈左衛門由緒書」などが収められた『新訂増補 史籍集覧 雑部』、それに、山本健吉『芭蕉三百句』です。

なぜ、またここで芭蕉かといへば、悔しいからです。和歌や俳句を、せめて読んで楽しむためにはどうしたらよいかと考へた結果、折口信夫の『世々の歌びと』もいいし(たしかにこれは勉強になります!)、高濱虚子の『俳句はかく解しかく味ふ』や、はたまた『中世の文学的伝統』(岩波文庫)などもいいんですが、ぼくはこの際ですから、やはり芭蕉にこだはつてみたいと思つたのであります。それには、芭蕉の『俳句集』、『七部集』、『連句集』などでは明らかに手強すぎるのですが、ふと手に取つた、山本健吉『芭蕉三百句』(河出文庫)が分かりやすさうなのです。 「排列は年代順」ですし、説明も芭蕉の生活に即してゐて、しかも適度に(?)難しさうです。勉強して、気持ちよく『おくのほそ道』を読みはじめたいと思ふ一念、今はただそれだけ・・。

ただ誤算だつたのは、本日は祝日だつたことです。帰りがてらデパートのレストラン街をのぞいたら混雑してゐて、すぐに入れる店が見あたりません。選ぶより、選ばれてしまつたやうに席についた天ぷら店が、しかし、実に美味しくて、退院、いや入院して以来(といふことは、あの担々麺以来)の満足に舌鼓を打つことができました。おかげで、だいぶ元気をとりもどすことができました。行つて帰つて三七〇〇歩にしかすぎませんでしたが、これも碓氷峠越えの第一歩だと心したしだいであります。めでたしめでたし。

ところが、帰宅後、ネットで、繁田信一著『平安貴族と陰陽師』を探したところ、なんと、ばか高なんです。ああ、買つておけばよかつたと思ひました。

 

今日の写真‥〈第19回池袋西口公園古本まつり〉の様子。求めた本の一部とアマゾンのギフト券。