十一月(霜月)廿一日(金)丙申(舊閏九月廿九日) 晴

 

午前中、くづし字を勉強しました。『変体平仮名演習』(笠間書院)といふ、まあ、學生の教科書だと思ふのですが、古本屋で百圓で買つた本がとても役に立つてゐます。

よく使ふ「変体平仮名の諸体」と「混同しやすい仮名」の一覽につづいて、「演習用本文」がほぼ七割を占めてゐます。「古今和歌集抄」と「伊勢物語抄」と「源氏物語 花散里」と「徒然草抄」の四種です。ちよつと眞面目に取り組もうかなと思つて、最初の「古今和歌集抄」を昨晩から讀みはじめたんですが、いやあ、難しいこと! どなたの筆なんでせうか、とんでもない字母が頻出するんです。

『古今和歌集』の影印本は、藤原定家筆と三條西實隆筆の二册が手元にあつて、後者はその序文を丹念に讀んだものでした。定家さんの筆は獨特ですが、なれてしまへばそれほど讀みにくいことはありません。ところが、この演習本のは、今まで讀んだことのない字母の羅列です。

冒頭の、「としのうちに春はきにけり」を、定家筆では、「とし乃うち爾春者き爾介和」とありますが、「爾」も「者」も「介」も「和」も頻出語ですから、すでに學習濟みです。三條西實隆筆本も、「年能内爾春ハ支爾介利」で、「能」も「支」も「利」も同樣です。ところが、本書の「古今和歌集抄」では、「東志乃有知丹盤流盤支爾介利」となつてゐて、まるで、『萬葉集』の原文(萬葉假名)のやうです。「東」と「有」が初對面でした。もちろんくづし字としてですよ。しかも、「盤」は二通りのくづしなんです。これは、書寫する人の好みなんでせうか、傳本によつて、書き方も、使はれる文字もまるで異なつてゐるんですね。

ついでに、『百人一首』の書寫本についても同じことがいへます。それがまた味があつて面白いとは思ひますが、後日の樂しみとしたいと思ひます。

 

また、堀田善衞さんの『定家明月記私抄 続編』を讀みはじめました。ご自身、「これを書き続けて来て、時には自分が平安末期から鎌倉時代へかけての、週刊誌の編集者になったか、とすら思ったことがあった」、とおつしやられてゐる通り、讀んでゐると、「それで、それで」、と身を乘り出したくなるのも當然ですね! この次は、同じ堀田さんの『方丈記私記』を讀みたいと思つてゐます。

 

今日の寫眞・・『古今和歌集』の冒頭、三種。左上から、『演習』の「古今和歌集抄」と三條西實隆筆、下が藤原定家筆です。

 


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