四月九日(木)乙卯(舊二月廿一日 晴のちくもり

 

今日は、昨日とはうつてかはつた良い天氣になりました。それにしても、昨日は寒かつたです。ましたや雨降りでしたから、そのやうな日は家で寢轉んで本を讀んでゐるのが一番なんですけれど、まあ、二箇月に一度の、缺かせない通院日だつたので、仕方がありませんでした。

だから、無駄には過ごしませんでした。ぼくのご公務ですから、歸りはもちろん神保町です。でも寒かつたので、二、三軒だけに絞つて訪ねました。一軒目は、誠心堂書店です。ガイドブックによれば、「古典籍、書道、日本史、民俗学、漢文。原拓、古法帖から最新刊まで、ここ数年は書道関係を熱心に集めている」といふ、まさにぼく好みの古書店なんですけれど、小さなお店です。そこならわかるかなと思つたからです。

といふのは、先日(四月五日)來、『入木抄』を讀んでゐますが、そこにかうあつたのです。

「御本一卷を、一度に首尾を習はせ給ふ御事はあるべからず候。まづ詩一、二首などを、取り返し取り返し數反(へん)數日御稽古候て、御本の面影さわさわと御心に浮かみて、そらに遊ばされ候も、相違無き候程になりて後、次第に奥をも御習ひあるべし。」

この、「詩」といふのが、白居易、つまり白樂天の『白氏文集』のやうなんです。それで、その中の詩(もちろん漢詩です)を一、二首、繰り返し書いて、見なくても書けるやうになるくらゐ書くことが大事だと、尊圓親王が後光嚴天皇に敎へられた、その通りにやつてみようかな、とぼくも思つたしだいなのであります。

敎へを受ける後光嚴天皇さんは御年十五歳、すでにすばらしい文房四寶に圍まれた生活をなさつてゐたでせうから、言はれた通りにすぐに『白氏文集』に取りかかれたでせう。しかし、この年になつて、もうはじめて筆を取つたといつていいでせうね、そんなぼくが同じやうに出來るわけがありません。でも、白樂天の『白氏文集』を見てみたいと思つたつて、そのくらい許されると思ふのです。

それで、古書店を訪ねたわけなんですけれど、店主が出てきて、首をかしげるのです。ぼくは、白樂天自筆本があるのかと期待したんですが、わからないやうなんです。ただ、我が國で愛された詩人ですから、その詩を書き寫した方がをられました。藤原行成です。小野道風、藤原佐理とともに三蹟の一人で、さう、日記『權記』の執筆者でもある方ですね。

今まだ進行中のぼくの「読書」によれば、忠平の日記(貞信公記)にかかつてゐるところですが、その藤原忠平から四代あと、師輔、伊尹、そして義孝の子にあたり、「白樂天詩卷」を書き殘してゐます。それが誠心堂書店さんにありました。『平安・藤原行成・白氏詩卷(国宝)』(日本名跡叢刊⑫)です。他にも白樂天を書いた方はをられるんでせうけれど、行成さんが最高でせう。それでさらに棚をよく見てみると、あれ、すぐそばに、見たやうな小さな本があります。『伝 藤原行成筆御物和漢朗詠集』です。いや、これなら、もしかしたら、すでに持つてゐるかも知れないと思ひました。しかも、そこには、白樂天の詩がたくさんあつたのです。『和漢朗詠集』は岩波文庫で讀んだはづですから、忘れてゐたんですね。これは迂闊でした。

たしかにありました。何か、ぐるりと回つてもどつてきたやうな感じです。それならと、買はずに歸宅して、和本の束の中に發見したんです。いやあ、バカなことをとお思ひでせうが、これが、ぼくの讀書のやり方なんですね。目につき、心に感じた本は、安ければですが、その場で手に入れておくのです。やはり、必要になつたではありませんか。たつた三百圓だつたんです。それと、もう一册、『御物 倭漢朗詠抄』といふのもみつかりました!

ちなみに、『和漢朗詠集』は、行成とは遠い親戚の藤原公任が編纂した詩歌集です。當時の「王朝人の愛唱したうたや詩のエッセンスをえらびにえらびぬいて、上下二巻にあつめたもの」ださうです。それを、藤原公任が、「名筆第一とたたえられた友人の藤原行成に清書してもらったもの」なんですね。

 これで準備は整ひました。あとは書いてお稽古するばかりです。さあ、どうなることでせう?

 

と思ひつつ、午後から夜にかけて、ワード版『歴史紀行四十四 中仙道を歩く(廿五)』(鵜沼宿~加納宿)を仕上げてしまひました。今日も、パソコンが二回もフリーズし、二十分待つて強制執行してしまひました。もう、かうなつたら、やるしかありません。

と、そんないらいらした氣持ちをなだめなだめて、やつと仕上げたのでありました。お察し願ひたいと思ひます。まあ、夜になつてしまひましたけれど、これから、もう一度讀み直してからお送りするつもりです。

 

今日の寫眞・・お習字のお手本にしようとして探し出した、『和漢朗詠集』二册。といつても抜き書きです。でも、白樂天の詩はいくつもあるので、『入木抄』の敎へに從つて、氣に入つた詩を一つ二つ選んで、お稽古したいと思ひます。

詩の下に「白」とあるのが、白樂天の詩です。

 



コメント: 0