四月十三日(月)己未(舊二月廿五日 終日雨

 

今日は、雨でしたけれど、弓道場へ行きました。ぼくは、いつも家から稽古着を着て出かけるので、雨の日はさけたいのですけれど、みなさんとお約束したので、がんばつてまゐりました。

だからでせうか、よく的中しました。心がけがいいと、姿勢も、そして射もいいんですね。雨でしたので、齋藤さんを自宅までお送りして、滿足して歸つて來ることができました。

 

昨夜、流山散策の日記を書いてゐたら、ふと、『歴史紀行 四十五 流山散策紀行』にならないかと思ひました。そして、〈はじめに〉を書いてゐたら、もうその氣になつてしまひました。ですから、以下その氣になつてつづきを書きました。

 

遅れがちなぼくたちは、リーダーに鼓舞、といふか叱咤されて、來た道をもどり、さらにその先をたどると、右手には江戸川の堤防が現れました。ところが、先ほどの青柳さんによれば、今歩いてゐる大通りが、江戸時代の土手だつたんださうです。ずいぶん低い堤防ですけれど、昔はこれでも役に立つたんでせう。

そんなことを思つてゐると、突然、ここですよ、と言はれた聲に目を向けると、そこに古民家、「万華鏡ギャラリー 寺田園茶舗 見世藏」が出現。中に入つて見せていただきました。なんでも、有田焼万華鏡展を開催中だといふことで、高價さうでしたよ。それでもいくつか覗いて見ました。他に、作家ごとの展示がなされてゐたので、南伊豆の庄司さんの作品が出てゐるかなと思ひましたがありませんでした。

その明治二十二年に建てられた、「黑漆喰仕上げの土藏造り」の見世藏さんを出ると、道路をはさんだ向かひは堤防、しかも一面の菜の花畑なのでした。いや、菜の花に被はれた堤防と訂正します。先を急ぐリーダーをよそに、ぼくたちは堤防に上つて、はしやいでしまひました。江戸川の流れも見えましたし、遠くスカイツリーも眺めることができました。なにしろむせるやうな花の匂ひです。櫻はすでに散つてしまつたところですが、これは思はぬ拾ひものでした。

 

やがて、一茶双樹記念館に着きました。「俳人小林一茶が第二の故郷として過ごした、醸造家の秋元本家跡。幕末の建物を解体復元して公開」されてゐる、いはば一茶記念館です。入館料は百圓。

先ほど、流山は、水運とともにみりん醸造で榮えた町だと書きましたが、そのみりんの開發者の一人といはれる五代目秋元三左衞門(寶暦七年・一七五七年~文化九年・一八一二年)は、本業のかたはら、双樹と號して俳句をたしなみ、小林一茶と深い親交をもちました。一茶は、流山の双樹のもとに、生涯に五十回以上も訪れたことが知られてゐます。

まあ、いはゆるパトロンかと思ふところですが、氣があつた二人は、「富兄と貧弟の関係」といはれるくらゐ仲がよかつたやうです。でなければ、止宿回數五十一、宿泊數一三六、と數へられるほど訪れるはづはないでせうからね(井上脩之介著『一茶漂流』崙書房、參照)。

ちなみに、現茨城縣北相馬郡利根町の布川には、四十九回止宿、二八九泊で、一回の止宿が流山より倍以上、宿泊數は房總地區最高なんです。流山は富津につづいて、第三位です。さういへば、今日もご一緒してゐる、史策會ではなくてはならぬお一人、日野さんはその布川にお住まひなので、聞いてみました。が、どうも、それらしき史跡も句碑も整備されてゐないやうなんです。また、どのやうな方と親交があつたのか、このはうも氣になつてしまひました。

 

ところで、一茶双樹記念館は、大きく、入口(受付)にも當たり、展示室のある秋元本家と、寄棟造瓦葺で、座敷が三間ある双樹亭、それと隣接した、茶室ともなる、一茶庵の三棟からなつてゐました。なかなかいい造りです。三棟それぞれ、建物だけでも見る價値ありですね。庭も素晴らしいです。

一茶の句碑は、中門から入つたところにありました。流山で詠んだ一茶の句はたくさんありますが、つぎの四句が有名のやうです。

 

春  春嵐がならして行ぞ田にし哉

夏  刀禰川は寢ても見ゆるぞ夏木立

秋  夕月や流殘りのきりぎりす

冬  炭くだく手の淋しさよかぼそさよ

 

その、秋の句が、赤茶けた自然石に刻まれて建つてゐました。夏の句によれば、江戸川が當時利根川と呼ばれてゐたことと、やはり、土手が、道路とさしてかはらぬくらゐ低かつたことがうかがはれて、興味深いですね。

ぼくは、歸りに、受付で、『下総葛飾今樣小金道繪圖』(二百圓)を入手しました。これは、「一茶が通った小金道」の地圖なんです。馬橋驛から水戸街道に沿つて北小金驛まで北上し、そこからは西に向かひ、流山電鐵の南側を沿ふやうにして、双樹庵までの行程です。

一茶の日記や句帖に記されたところにしたがつて確認された道筋のやうなんです。いつか是非歩いて見たいと思ふのですが、問題は誰と歩くかですね。これは難問です。(未完)

 

 今日の寫眞・・菜の花に被はれた堤防にて。一茶双樹記念館、双樹亭の縁側にて。一茶句碑。



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