正月廿八日(土)乙卯(舊正月朔日・朔 晴

 

今日は土曜日。昨日は「古本漫歩」の金曜日でしたけれど、《千葉市を再発見しよう!》 を書くために外出を控へました。その代り、今日は、豪勢に三か所で行はれてゐる古書市をめぐり歩いてきました。古書會館の本部のある神田と、高圓寺の西部會館と、五反田の南部會館です。 

はじめはいつものやうに、新御茶ノ水驛から歩いて東京古書會館を訪ねました。金曜日にくらべて人出が少なくて寂しいくらゐでした。で、金曜日のうちに買はれてしまつたのでせうか、思ふやうな掘出し物はほとんどなくて、いや、一册だけ、今ベッドで讀み進んでゐる 『書物捜索』 の著者、横山重さんが「校訂」された 『室町時代小説集』 といふぼろい本を見つけました。昭和十八年に出された本ですから、紙質が惡いのはしかたありません。『書物捜索』 のなかで、『室町時代小説集』 の原本の 「熊野の本地」 とか 「天狗の内裏」 とかを「捜索」する苦勞話を讀んでゐるものですから、これは即買ひでした。たつた二〇〇圓でしたからね。

 

また、西部會館は今日からの開催だからでせうか、けつこうな人出で、一回りするのにもたいへん。でも、八木福次郎著 『[新編]古本屋の手帳』(平凡社ライブラリー) を求めることができました。八木福次郎(1915年~2012年)さんは、ぼくがしばしば訪ねる、神保町の八木書店の創業者の弟さんでありまして、「長年にわたり月刊誌『日本古書通信』を主宰した」方なのでありました。 

裏表紙には、このやうにあります。「神保町と古本と古本を愛した人々を語るに、この著者以外にいるだろうか? 『日本古書通信』編集一筋、“ミスター神保町”が語る神保町の今昔と読書人たちの姿。」

 

さて、だいぶ疲れてきましたが、ここでだいぶ遅い晝食をいただきました。いきあたりばつたりのラーメン屋で、ジャンボ餃子をいだだきました。さういへば、今日は舊正月で、だからといふわけではありませんが。 

つづいて五反田です。新宿乘り換へですが、まあ人人人の群れ! もまれてゐるだけで疲れてしまひます。きつと、ドイツにはラッシュアワーなどないのだらうな?

 

南部古書會館は、三か所のうち、一番寒々とした雰圍氣ですが、今日は本當の掘出し物を手に入れました。それも、雨が吹きかけたら濡れてしまふやうな平臺の上で見つけたのです。 

和本といふより、もはや紙屑と化した山の中に、それでも形が整つた數册が見えたので引き出したら、一册一册がパラフィン紙に包まれた和本でした。あちこちにばらばらにもぐりこんでゐたやつを集めて束ねてみるとちやうど十册ありました。題簽(だいせん)には 『和歌題林抄 春上』 とあります。どのやうな本なのかよく分かりませんが、一册二〇〇圓ですから、これも有無を言はず求めました。それと、ついでに、本居宣長の 『馭戎慨言』 の下之上と下之下、それに、『黒谷上人語燈録』 といふのがあつたので、紙屑に近い姿ですが、求めました。もちろん同じ値段です。 

まあ、嵩張りはしましたが、和本は輕いので助かります。それで持ち歸りました。 

 

*補注一・・『増補和歌題林抄』 について 

一条兼良編著 京都 北村四郎兵衛 寶永三年(一七〇六年)刊行 上下本 

北村季吟増補 江戸 須原屋茂兵衞 安永六年(一七七七年)再刻 十一册本 

『和歌題林抄』は、和歌を詠題によって分類したもので、上巻に四季歌を、下巻に「恋」「雑」などを収めた一帖。該本は徒然草で知られる兼好の筆と伝える「和歌題林抄」で、運筆の美しさはみごとである。 

タイトル別名 『頭書増補和歌題林抄』 

題箋の巻表示 一春上、二春下、三夏、四秋上、五秋下、六冬、七戀上、八戀下、九雑上、十雑中、十一雑下 (殘念ながら、このうち「戀下」だけ缺けてゐました) 

書型 半紙本、和装、袋綴じ、木版 

 

*補注二・・『黒谷上人語灯録』 について 

法然上人の遺文は、他の祀師方にくらべると相當多いのであって、その中には自ら筆をとられたものもあり、また弟子達が筆録したものもあり、その内容としては選澤集のように数義についてあらわしたものや、三部経繹や往生要集繹のように経文等を註繹したものもあり、また門弟やその他の人に書き迭った清息等があった。これらは法然上人の滅後、その門流末學によって漸次蒐集編纂されて傳記類の中に集録されたり、また法語沿息類だけ凋立して集められたりして、それが滅後百年位の間には相當の敷にのぼり、その圭なるものとして傳記類では本朝租師傳記紬詞(四巻傳)、醍醐本法然上人傳記、弘願本法然聖人絃、拾遺古徳傳、琳阿本法然上人傳給詞、法然上人傳記(九巻傳)、法然然上人行状糟圖(四十八巻傳)等があり、圭として法語消息類を集録したものとしては西方指南抄、黒谷上人語灯録がある。 

このうち黒谷上人語灯録は、上人の著作、法語、消息等の殆んど全てを網羅したもの、集大成されたものということができるのである 

 

今日の寫眞・・『和歌題林抄』 と 『馭戎慨言』 と 『黒谷上人語燈録』。いやあ、いい本を見つけました。やはり掘出し物でした! 

それと、八木福次郎さんの畫像