五月六日(土)癸巳(舊四月十一日 晴

 

無理をおして出かけてきました。五島美術館です。ついでですからもちろん神保町の古書會館にも顔を出しました。 

まづ、古書展のはうですが、そこそこ収穫がありました。なにがあつたかといふと、『源氏物語繪巻』 と 『源氏物語奥入』 の複製です。これらはぼくのために出してくれたのではないか、と言ってもいいやうなものでして、これだから足繁く通つてゐる甲斐があるといふものであります。 

それと、半藏門線に乘るために心を鬼のやうにして古書店街を通過してゐると、八木書店の“もつていけボックス”が嫌でも目に入り、ちらちと覗くと、ここにも源氏物語が、いやその圖録がずらりとをはしましまして、『源氏物語紙の宴』 なんか定価で六千円、国文学研究資料館編『源氏物語千年のかがやき』 千九百円、『源氏物語千年紀展』 は値段が缺落してゐますが數千円を下らぬ豪華な装訂本がすべて各三百円! いやあ、二階のお兄さんたちがそろそろぼくが出かけるだらうと察して竝べてくれたのではないかと確信いたしました。ただ、先を急ぐので挨拶できなかつたのが心殘りでした。 

 

さて、五島美術館は、昨年の秋の紅葉の美しい時期に史索會でうかがひましたし、静嘉堂文庫美術館を訪ねたさいにも、展示内容をはやく知つてゐれば同時に訪ねたと思ふのですが、まあ期限ぎりぎりにどうにか行くことができました。 

今日は上野毛驛から歩いてみました。途中蕎麦屋で腹をみたし、まだ蕎麦湯の香りが消える間もなく到着でした。 

紅葉に變はつて、新緑が建物を覆ひ隠してしまふほどで、五島美術館、テーマは「歌仙と歌枕」で、こちらは和歌の色紙のオンパレード! 當然おくゆかしくも壓倒的な力、これを存在感と言つていいのか、湧き上がつてくる迫力と言つていいのか、とにかくも一點一點釘付け状態を脱しながらでないと次に進めないやうな有り樣でありました。  

しかし、なんと言つてもぼくの心を捕らへたのは、特別展示の「源氏物語繪巻」でありました。德川美術館とこの五島美術館にしか傳はつてゐない國寶であります。 

 

入館してまづ最初にこの源氏物語關連の展示室2に入り、さらさらつと見て回りました。が、幸ひ人が少なくて、ゆつくりゆつたりと、くづし字を目でたどることなどもできる雰圍氣でした。 

ついで展示室1の「和歌の書」をたつぷり時間を氣にせずに見て回りましたが、からだのはうが疲れてしまつて、ベンチに座つたりしてたつぷりと重要文化財の「筆」を堪能させていただきました。 

さらに、今日は粘りまして、休息の後、再び展示室2に入り、こんどは繪卷を主に向かひあひました。「鈴虫一」「鈴虫ニ」「夕霧」「御法」の四枚です。各繪卷に、現代畫家の「復元模写」が竝べられてゐて、これはこれで興味深いものがありました。 

 

實はこれらの繪卷は、午前中に古書會館で求めた 『源氏物語繪卷』 そのものでありまして、奇遇と言ふか必然と言ふか、これだから勉強はやめられませんですね! 

ただ、午後2時から美術講座「12世紀の古筆」があると言ふので期待したのですが、これは友の會の會員だけしか受講できないのださうです。受講料出すから受けさせてほしいと思ひました。 

このやうに充實した一日でありまして、ついでに龜有の病院に母を見舞ふこともできました。ところが、母が、そろそろ歸りたいと言ひだしまして、妻とつい顔を見合はせてしまひました。 

 

*註一・・五島美術館 「春の優品展 歌仙と歌枕」(四月一日~五月七日) 館蔵品の中から、歌仙(すぐれた歌人)の肖像画(歌仙絵)、平安・鎌倉時代の古筆、歌枕(和歌の題材となった名所)を描いた絵画や工芸品など名品約60点を展示(会期中一部展示替あり)。和歌の文化におけるイメージの形成と創作の源泉をたどります。 特別展示予定=国宝「源氏物語絵巻」429日[土・祝]―57日[日] 

 

*註二・・大東急記念文庫 国史大辞典 

東京都世田谷区上野毛三丁目所在。昭和二十四年(一九四九)四月二十日、東京急行電鉄の創立者五島慶太によって目黒区上目黒に創設された。その後、同三十五年四月世田谷区上野毛に移転し、姉妹館の五島美術館と併設されて現在に至る。国書・漢籍・仏書・古文書・書画碑帖など約二万点に及ぶ古典資料を蔵するが、蔵書の主体は旧久原(くはら)文庫である。久原文庫は、日本の先駆的な地質学者で、農商務省鉱山局長の職にあった和田維四郎(号雲村)が、明治末から大正期にかけて蒐集した一大コレクションの一つである。和田は、久原鉱業の創業者久原房之助と三菱財閥の総帥岩崎久弥から潤沢な資金援助を受けて蒐集に乗り出し、当時の古書籍市場を牛耳ったといわれる。したがって、久原文庫は、和田の遺言によって二分された岩崎文庫と、もと同籍であった。蔵書の特色は国書と仏書に稀覯本が多く、とりわけ近世文学・江戸資料が質量ともに優れていることであろう。久原文庫と同時期に購入された井上通泰文庫の書幅、さらにその後絵画・墨蹟・装飾経などの芸術資料や多数の古辞書類が加蔵され、一段と蔵書の充実が計られた。国宝・重要文化財三十一点。蔵書目録二冊、国書・漢籍・仏書の貴重書解題各一冊がある。

 

今日の寫眞・・昨夜、岩合さんのネコの映像を見入るモモタとココ。 

五島美術館・大東急記念文庫入口。大東急記念文庫とは、静嘉堂文庫と同じく、「国書・漢籍・仏書・古文書・書画碑帖」等の一大コレクションです。 

『源氏物語繪巻』、『源氏物語奥入』 の複製、それに、『源氏物語』關係圖録。