六月十日(土)戊辰(舊五月十六日 晴のち曇り

 

今日の讀書・・今日は、恆例となつた、學習院さくらアカデミー。けれども、古書會館で行はれる即賣會と重なつてゐますので、サンドウィッチで出かけてまゐりました。午前中は神保町、午後は高圓寺。その間にアカデミーといふわけでした。

 

まづは神保町の東京古書會館。今日は、〈新興會展〉で、和本がずらり、値段も一桁も二桁も多い珍本、稀書が竝んでゐます。 

『源氏物語』 關係でいふと、日本古典文學會刊行の、桐箱入りの和本がいくつか。『源氏物語 鈴蟲・幻』、『源氏物語 繪合・行幸・柏木』 など。それに、例の 『源氏物語 奥入』 がありました。しかも三箱あつて、みな値段が違ふのです。 

一番高いのが、大橋寛治氏藏本が、一〇五〇〇圓。複製定家筆が、五二五〇圓。ただ定家筆とあるのが四五〇〇圓。ちなみに、ぼくが求めたのは、大橋寛治氏藏本でしたから、最も高價でしたが、ぼくは三〇〇〇圓で入手しました。三點開いてくらべたわけではないので、どこが異なるのかまでは分かりませんでした。 

それで、結局求めたのは、藤田元春著『都市研究 平安京變遷史 附・古地圖集』(日本資料刊行会) と、蟲に喰はれた和本の、『心學繪入 道歌百首和解 全』 だけでした。 

 

次いで、新宿驛乘り換へで目白に急行し、學食で味噌ラーメンをいただいてから敎室に向かひました。暑くなりましたけれども、學習院大學は大木に圍まれてゐるので、木陰も多く、風が吹いてくると冷やつとするほどです。なのに、建物には冷房が入り、冷えすぎて講義のあひだ寒くて仕方ありませんでした。 

それで、講義ですが、《源氏物語をよむ》 の第六回。「桐壺」の卷、「靑表紙本」二二頁から、二六頁まで進みました。靫負命婦(ゆけひのみやうふ)が帝に遣はされて、亡き更衣の里、そこに母親を訪ねる場面です。いやあ、このお二人の會話がややこしい。敬語が入り亂れて文法に弱いぼくのにがてとするところです。 

つまるところ、帝が「若宮」(のちの光源氏)に會ひたくて、宮中にもどしたいのでありますね。その帝の思ひを母親に傳へてゐるはづなんですが、これがもつてまはつた言ひ回しでありまして、と、まあさういふわけで、一應要旨はわかりました。

 

「引歌」の用ゐ方では、「本歌取り」といふのでせうか、「八重葎(やへむくら)」の古歌を引いてきて、荒れた庭の情景を描いてゐる場面では、「八重葎」の寫眞を見せていただいて、これはどのやうな植物か、小學館の「日本古典文学全集」では、「雜草」と譯してしまつてゐるけれど、さう言つてしまつていいのか、そもそも、「八重葎」は、『源氏物語』 では此處にしか出てこない單語なんですね。ですから、やはり、「八重葎」の印象を保存しつつ譯すべきであらうと、これはぼくもさう思ひました。 

もう一つは、「いまは猶むかしのかたみになすらへてものしたまへ」を、どう解するかで紛糾いたしました! まあ、斷定できない事柄が多くて、これも 『源氏物語』 が難しいと言はれるところなのでせう。 

 

さて、後ろ髪を引かれる思ひで、つづいて高圓寺の古書會館を訪ねました。ほぼ毎週顔を出してゐるのですが、展示グループが變はるためでせうね、毎回新しく目にとまるものばかりです。 

今日目についたのは、『景淸』(愛媛大学古典叢刊) と、さう、今井源衛著『花山院の生涯』(桜楓社 国語国文学研究叢書8) が安くて、しかも今ちやうど必要な書でありました。 

また、二〇〇圓で求めた、林望著『文章の品格』(朝日出版社)、歸りの電車と歸宅後、寢るまでに讀んでしまひました。 

 

六月一日~十日までの讀書記録

 

六月四日 杉本苑子著 『散華 紫式部の生涯(下)』 (中公文庫) 

六月五日 藤本泉著 『源氏物語の謎 千年の秘密をいま解明する』 (祥伝社ノンブック)  

六月六日 武田宗俊著 『源氏物語の研究』 (岩波書店) 

六月七日 入口敦志著 『漢字・カタカナ・ひらがな 表記の思想』 (平凡社) 

六月八日 槇野廣造著 『平安朝日記』 (ふたば書房) 

六月十日 林望著 『文章の品格』 (朝日出版社) 

 

今日の寫眞・・日本古典文學會刊行、桐箱入りの和本、三種の 『源氏物語 奥入』。それと、學食にて。