九月廿三日(土)癸丑(舊八月四日 曇天

 

今日の讀書・・一日寢轉がつて讀書。昨夜は、『暗殺の年輪』 を讀み終へ、つづいて第二册、『又藏の火』 に入りました。 

『暗殺の年輪』 は、一九九三年三月に讀んでゐますから、二十四年前になります。すべて忘れてゐましたが、再讀に耐える重厚な面白さでした。さう、その「解説」が的を射てゐるので寫しておきませう。

 

「少しも気取ったりひけらかしたりするところのない正しいその文体のゆえに、この作者の作品は一見地味だが、実は梨地の漆器のような緻密な地肌の絢爛たる作品なのである。読者にはそこを玩味してもらいたいと思う。この作者の作品は何度読み返しても倦きることはない。初読のときよりも再読のときのほうが、更には三読のときの方が、作品の味わいは深まる。目立たないところにまで細心な工夫がこらされているからである」。

 

まさにその通り。そしてさらに・・・

 

「どの女もかなしく、美しく、読者はこれらの女たちを、これらの女たちを描いているそれぞれの作品を、愛惜せずにはおれなくなる。そこがこの作者の作品の第一の魅力である」。

 

はい、その通りです、言ふことありませんね。 

 

で、かたはら、『源氏物語〈葵〉』 も數頁讀み進むことができました。葵の上の家をあとにした源氏は、桐壺の院に參上します。とどこほりなく精進を濟ませたこと、そして正妻の家をあとにしたことなどをお傳へしたわけですけれど、そこで、中宮藤壺にお會ひすることも忘れてはゐません。が、うはべだけのつくろつた挨拶に始終し、夜更けに退出いたします。 

そこで、二條院にお歸りになり、舞臺が變はつたやうなはなやかな氣分で、「いとうつくしうひきつくろひておはす」姫君とお會ひになります。かの美少女、紫の上であります。 

さあ、お立ち合ひ、これからが〈葵〉のクライマックス、いや、『源氏物語』 のさはりとも言へる源氏と美少女との濡れ場がくりひろげられる、といふところで、今日はお仕舞ひ。 

 

今日の寫眞・・本棚から出てきた 『江戸切絵図にひろがる 藤沢周平作の世界』(人文社)。これは、江戸切繪圖に、作品の名場面を書き込んだ、いはば、藤沢周平愛讀者必携の地圖なのでありまして、地圖好きのぼくには缺かせない參考書です。ただ、惜しむらくは、「鶴岡御城下絵図」はあつても、「海坂藩」の地圖がないことです。井上ひさしさんの書いた地圖があるのは知つてゐますが、ネットで調べても、小さすぎてプリントもできません。販賣してゐるのでせうか? 

ちなみに、『暗殺の年輪』 には次のやうな描寫があります。

 

「丘というには幅が膨大な台地が、町の西方にひろがっていて、その緩慢な傾斜の途中が足軽屋敷が密集している町に入り、そこから七万石海坂藩の城下町がひろがっている。城は、町の真中を貫いて流れる五間川の西岸にあって、美しい五層の天守閣が町の四方から眺められる。」 

これが、藤沢作品初出の 「海坂藩」 御城下の姿です。

 

それと、今日のモモタとココ。寢轉んでゐるのも樂ぢやあありません。