九月廿六日(火)丙辰(舊八月七日 晴

 

今日の健康維持散歩は、三つの目的をいつぺんにはたした、いはばトリプル散歩でした。 

はじめは、《東京散歩 じゆんの一歩一》 で、その第十二回目。つづいて、ただ今開催中の古本市を訪ね。そして最後は、立石圖書館を訪れてのお部屋です。 

歸宅してみると、一三九五〇歩でしたから、まあまあいい運動になつたと思ひます。 

 

まづは、ガイドブック 『東京山手・下町散歩』(昭文社) による 《東京散歩》。今日は〈コース番號12〉です。全120コースですから、やつと十分の一ですね。 

コース名と内容にはかうあります。「下町商店街周遊 日暮里・町屋 日暮里駅~都電町屋二丁目駅 荒川区の町並を楽しむコース。駄菓子横丁、日暮里中央通りの繊維問屋街、三河島駅前のコリアンマーケットと、それぞれの商店街が持つ空気感を味わいたい。〔所要〕2・5時間」。 

と、一應ありますが、堀切菖蒲園驛から向かふとすれば、町屋から歩きだしたいと思ひまして、それも、都電町屋二丁目驛からではなく、京成町屋驛からスタートすることにいたしました。

 

都電町屋二丁目驛までは數分。そこから左の路地に入り、ガイドブックの地圖に記されたコースを歩きましたが、行き過ぎては引き返し、氣がついたら曲がる角を間違へたりで、どうにか明治通りにぶつかりましたら、そこは、いつも電車の中から見てゐる、京成新三河島驛前でした。ですから、ここまでは、商店街などではありません。くねくねした路地がつづき、ときたま左手の町竝を横切る京成電車はなんだか新鮮に見えました。

 

新三河島驛ではトイレを借り、ちよいと休憩。そこからも、まつたく未知の道がつづきました。ふたたび路地です。昔の街道跡とも思はれません。大きなハングル文字で飾られた教會がいくつか見られ、地圖にはコリアンマーケットとあつても、それらしきお店もなく、JR三河島驛をはるかにのぞみながら尾竹橋通りを渡ると、そこから、眞東に向つて、驚くべき長さの、しかも狹い道の商店街が延々とつづきました。荒川中央通りといふらしいです。

 

けつこうにぎやかでしたが、商店が途切れたあたりを、こんどは右手に曲がり、保健所を左に見過ごしながら、地圖で言へば南に向かつて、五〇〇メートルほど進みました。炎天下といつた感じになつてきまして、それでも、今回のコース唯一と思はれる「名所舊跡」を訪ねました。猿田彦神社とその境内に置かれた 「享保十三年銘庚申塔」 です。享保十三年といふと、一七二八年ですから、新井白石が亡くなられてから三年たつた頃ですね。 

その角を右折し、こんどは眞西に向つて行くと、その先は日暮里。途中に、繊維問屋街がありました。布ばかりでなく皮革も扱つてゐました。そこで、美味しさうなお店があつたので、ラーメンと餃子のセット、六〇〇圓也をいただきました。人の出入りが多く繁昌してゐる店のやうですから、やはり美味しくいただくことができました。

 

ぼくは、最近、また自分で作つた「マイ箸」を携帶してゐます。といふのも、どの店も、黑くて重たい合成樹脂製の箸がおいてあるんですが、どうも使ひにくい。やはり伊豆で作つた輕くてすつとのびた自作の箸が一番。十數年使つてゐますが、丈夫で長持ちしてゐます。 

とかなんとか言つてゐるうちに日暮里驛に着いてしまひました。おまけは、駄菓子横丁でしたが、地圖を確かめ、現地を探し歩いてみましたけれど、たうとう發見できませんでした。それで、ゴールは午後一時ちやうど、正味八一五〇歩でした。 

 

さて、つづく散歩の第二の目的である古本市は、新橋驛前のSL廣場です。日暮里驛から直行です。日差しがさらに強くなり、長居は無用と思ひまして、輕く飛ばし見しておさらばしました。目についたのは一册だけ、平岩米吉著 『猫の歴史と奇話』 (動物文学会) といふ本でした。この人の犬についてのものはかつて讀んだことがありましたので、つい手に取つたところ、學術書とはいへ、たいへん興味深さうなので買ひ求めてしまひました(註)。 

 

さらに、都營淺草線で、立石驛に直行。立石圖書館は目と鼻の先でした。四階閲覧室はいつもの静けさを取りもどしてをりまして、いつもの席で、居眠りもせずに、一時間半ばかり 『源氏物語〈葵〉』 を繼讀いたしました。 

歩いたわりには疲れもかるく、まとはりつくモモタを押しのけながら、どうにか今晩中に「日記」を書くことができました。 

 

註・・平岩米吉(ひらいわ-よねきち) 18981986 昭和時代の動物学者。 

明治3124日生まれ。昭和9年動物文学会を主宰し,雑誌「動物文学」を刊行。シートンをはじめて日本に紹介する。みずからオオカミを飼育するなどニホンオオカミを研究、56年その集大成「狼」を刊行した。昭和61627日死去。88歳。東京出身。著作に「犬の生態」「猫の歴史と奇話」など。 

 

今日の寫眞・・《東京散歩》を除いて・・・、新橋驛改札口から見た古本市。平岩米吉著 『猫の歴史と奇話』 (動物文学会)。立石驛近くの線路際にて。最後は、今日の氣になる新聞の切り抜き。