十月十六日(月)丙子(舊八月廿七日 雨

 

今日の讀書・・山本淳子著 『源氏物語の時代 一條天皇と后たちのものがたり』 (朝日新聞社) を讀み進んでゐたら、やたらに淸少納言の 『枕草子』 が引用されるので、いづれ讀むべき本棚の中から出してきました。笠間影印叢刊の 『枕草子 能因本 (上下)』 です。昨年の一月に購入してゐました。 

それを、以前、開いてみたことがあるんですが、上下二冊のはじめからおしまひまで、變體假名がすきまなく埋め盡くし、どこが章段で段落なのかさへわからずに、閉じてしまつたのでした。

 

句讀點や濁點がないことはわかつてゐましたが、章段に分けられて見出しも書かれ、段落もあり、句讀點や濁點もつき、會話や消息文は「 」でくくられてゐる至れり盡くせりの文庫本や古典文學全集などの活字本を見慣れてゐる者が見たら、まるで暗號解讀であります。くづし字解讀リテラシーの向上が當面の課題ですから、だからぼくは讀もうといふ意氣込みがわいてきたんですが、でなければ、源氏だつて、他の古典文學だつて、本氣になつて讀みはじめたかどうか?

 

で、昨夜からはじめ、今日まるまる一日を費やして何をしたかと言ふと、すきまなく埋め盡くされた變體假名に、章段番號をつけたのです。三二三段ありました。ただ、最初から讀むのであれば、ゆつくり區切りを確認しながら讀んでいけばいいのです。けれど、今は、目ざす箇所を即座に開いて讀みたいので、どうしても番號が必要なんです。『古今和歌集』 のやうに、はじめから番號くらゐつけてくれてゐてもいいのになあと何度思つたことでせう。

 

思ふに、『枕草子』 の本文には四系統(三巻本・能因本・前田本・堺本)があつて、すべてに共通する番號をつけられないのでせうね。さうとしか考へられません。ちなみに、笠間影印叢刊の 『枕草子』 は〈能因本〉でありまして、「三条西家旧蔵・現学習院大学蔵」本と呼ばれてゐます(註)。前に、これらの書物が、三條西家から學習院大學へゆづられた經緯について書いたと思ひますが、折角ですから、先生におねだりして現物を見せていただきたいものであります。

 

ところで、章段をつける註釋書には、古書店で三〇〇圓で投げ賣りされてゐる、小學館の日本古典文學全集を用ゐました。これは、能因本を底本として、學習院大學の先生方が校註したものですから、章段がぴたりとあてはまつて氣持ちよかつたです。でも、問題といふか困難は、くづし字が讀めないとどこで切つたらよいかわからないといふことです。以前は閉じてしまひましたが、どうにか怖がらずに章段を探し出せたのは、それだけ、くづし字解讀リテラシーが向上したことによるのでせう。中野三敏先生の勵ましにもよりますが、ありがたいことです。 

 

註・・『枕草子 能因本』 枕草子の本文四系統(三巻本・能因本・前田本・堺本)のうちの一つ、江戸期以後、一番流布された善本、能因本の現存唯一の書。三条西伯爵家に古くから伝えられた由緒正しい本で、昭和二十四年に学習院大学へゆずられた 

 

今日の寫眞・・『枕草子 能因本』(笠間影印叢刊)表紙と、目次と本文冒頭。