十一月四日(土)乙未(舊九月十六日・望 晴のち曇り、夜雨

 

今日の讀書・・今日は、昨日二〇〇圓で求めた、森銑三さんの 『思い出すことども』(中公文庫) を讀みつづけ、そして讀み終はりました。 

森銑三さんのお名前はずつと以前からご存じで、いつかまとめて讀もうと思ひつつ、まあご専門が江戸・明治時代ですからね、まだまだ先のことと思つて過ごしてきてしまひました。それで、讀みたいものの本筋ではなく、思ひ出ばなしならちよいとつまむにはいいだらうと讀みはじめたらこれが面白い。出會ひとはこのことをいふのであらうと思ひました。横山重さん、反町茂雄さんにつづく「書物狂ひ」のお人なのでありました。 

本文に、「まる一日が、読むことと書くこととに使われる私の生活は快適で、かような生活が、どうかいつまでも続いてくれるように願われた」、と書いてある通りの理想的な生き方を貫いてこられた方なのであります。

 

森銑三さんの功績は、第一に、その著述が、「江戸・明治期の人物を掘り起こし、風俗研究、人物研究を行う上での基点となっている」こと、第二に、ご自身大好きな 『黄表紙解題』(正續二册) を出されたこと、そして第三に、「後半生は井原西鶴の研究に注力し、『西鶴本叢考』、『西鶴一家言』、『西鶴三十年』、『一代男新考』 などを著した」ことでせう。 

どれも興味のあるテーマで、西鶴は、『好色一代男』 を繼讀中、「黄表紙」本もあれこれ集めてあるのですが、問題は、人物です。

 

「泰平が三百年も続いたところから、江戸時代には、至るところに人物が輩出している。人物輩出の一事から見る時、江戸時代はまことに賑やかな時代だった。それだのにそれらの人々の内、伝記らしい伝記の出来ている人はというと実に少な」いと発憤興起されて、「うぶの資料をなるべく豊富に集めて、それに拠って、近世期の人物の伝記を書いて見たいと」、志された結果が、膨大な「人物伝」となつたわけであります。もう、感謝といふしかありません。 

 

註・・森銑三(もりせんぞう) 大正~昭和時代の書誌学者。明治28911日愛知県刈谷市生まれ。東京帝大史料編纂所、尾張徳川家蓬左(ほうさ)文庫につとめ、戦後は早大で書誌学を講義。近世学芸史を研究し、資料を探索してうもれていた人物を発掘した。公私にかかわらず一貫して清廉な姿勢を貫き、華美を嫌った。それを永井荷風は、「森さんのような人こそ、真の学者である」と評している。昭和6037日死去。89歳。著作に『おらんだ正月』、『松本奎堂(けいどう)』、『西鶴と西鶴本』など。 

 

今日の寫眞・・森銑三さんのご本。みな古本の 『思い出すことども』 など。