十二月廿三日(土)甲申(舊十一月六日 晴

 

今日の讀書・・だめでした。「本が屆いたはよ~」、と妻が叫んだ聲を聞いて、ドキンとしました。動悸も激しくなり、血壓もアップ。でも、これに耐へられなければよきコレクターにはなれません。そしらぬ振りをして、玄關に向かひました。 

じつは、『窯変源氏物語』 とは別に、この際に求めておこうと、中央公論社の日本の名著シリーズ、これのペーパーバック版があつたのです。數册はダブりましたが、「道元」、「山鹿素行」、「伊藤仁斎」など八册を求めて、一緒に送つてもらつたのです。ほんたうは、こちらのはうがぼくには大事です(今日の寫眞參照)。 

 

さて、今日は、昨日のつづきのやうなもので、『源氏大鏡〈上〉』(ノートルダム清心女子大学古典叢書)(註一) を出してきて讀んでみました。『源氏小鏡』 もあるのですが、まづはこちらから。昨日電車の中で讀んだ 『十帖源氏』 と同じ〈賢木(榊)〉の卷の最初から、原文と照らし合はせながら讀んでみました。

 

御息所と娘の齋宮が伊勢へ下り、源氏の庇護者であり父の桐壺帝が亡くなり、それを契機に右大臣派の逆襲がはじまります。そのさなかにあつて源氏は右大臣の娘、朧月夜と再會、文のやり取りではおさまらずに密會に及ぶあたりまでの、十頁ほどです。 

この、ノートルダム清心女子大学古典叢書の 『源氏大鏡(上中下)』、求めた時は少しも讀めず、凍結状態だつたのが、今日はすらすら讀めるのが不思議なほどです。で、『十帖源氏』 とくらべると、こちらのはうが正しいダイジェスト版です。『十帖源氏』 は原文の切り貼りでしたが、こちらは、文章の前後を行き來しながら、言葉も添へたり略したり、話の筋が通るやうな書き方をしてゐます。まあ、細やかなといふか、いささか煩瑣な心の機微は抜け落ちますが、そこが源氏學者の取り組む領域なのかも知れませんが、素人にとつちやあ、筋を追つて讀むぶんには十分です。もちろんくづし字のお勉強にとつて・・。

 

例へば、今日の寫眞であげた、朧月夜との關係のくだりなどは、原文ではわかつたやうでわからなかつた部分ですが、それがすんなりと理解できました。二人の關係は深く靜かに潜行し、文のやり取りから密會へとすすむのです。斷然わかりやすい! 

それに、讀みはじめたら、とてもわかりやすいくづし字でして、復習をかねて桐壺の最初から讀んでみたくなりました。ただ、古典文庫の 『十帖源氏』 のやうに分册にできないのが、ちよいと難點ではあります。 

 

註一・・『源氏大鏡』 桐壺巻から始めて『源氏物語』の梗概を巻順に述べているが、各巻の梗概には、『源氏物語』のすべての和歌がそのまま含まれていることを大きな特色としている。これは鎌倉時代までにしばしば見られた「和歌を中心にしてその前後の原文を要約して記する」という梗概化の方法を、源氏物語全編にわたって積極的におし進めたものと見られるが、これは多くの人々にとって『源氏物語』に対する関心の大部分が『源氏物語』に依拠した歌つくりにあった風潮を反映したものであると考えられる。梗概を述べる途中で随時、語釈・有職故実・和漢の故事・引歌・登場人物の系図関係などが記されており、この他に冒頭(一部の伝本では巻末)において普通『源氏物語のおこり』と呼ばれる『源氏物語』の成立についての一文や光源氏の準拠論(モデル論)などが含まれている。 

 

今日も御詠歌はお休みします。ごめんなさい。かはりに、源氏物語をおよみください。讀み方も記しておきました。 

 

今日の寫眞・・『源氏大鏡〈上〉』 の部分。と、今日屆いた本。 

以下、寫眞の文の翻刻です。 

 

「・・・・・・朧月夜 

は、内(宮中)に内侍の督(ないしのかみ・尚侍)にてさふらひ給ふ。 

(朱)御門(夫たる朱雀帝)の御心ざしは深けれども、源氏 

をのみ忍ひ給ふ御こゝろにて、互に 

今も御文かよひ、又逢みたまふ事 

もあり。院のおはしますほとこそあれ、 

空おそろしき世を源氏もおほし 

まうけたれど、あやにくなる御心なり。」

 

と、まあここまででもいいのですけれど、原文にない興味深い言ひ方があるのでつづけます。 

 

「賀(かも)の齋院は、院の御ふく(御喪)にており 

給ひにしかは、槿(あさがほ)の姫宮いつき(齋)に 

居給へり(お立ちになつた)。源氏は伊勢をもかも(賀茂)をも 

あやしく神うらめしくおほしけり」 

 

どうです。原文では、「口惜しくと思す」とだけあるところですが、御息所と、これまた可愛いなと思ひはじめたその娘が、はたまた從妹でありながらまだ男女關係にはなつてゐないものの、できればしたいなどと思つてゐた朝顔が、みな齋宮だ齋院だといつて神の御用のために去つてしまつたのです。こちらでは、「神をうらめしくおほ」すと書き換へられてゐます。ですが、御心です、ここはぢつと我慢してゐるしかないでせう。ねえ、光君。