二月九日(金)壬申(舊十二月廿四日 晴

 

今日も、《東京散歩》 に出かけてきました。ほんとは明日のはうがよかつたのですが、天氣がよくないといふので今日にしたわけです。明日なら、高圓寺の古書會館でも古本市が開かれるのですが、神保町だけにして、あきらめました。 

神保町の古書會館では、『後撰和歌集』 と 『新古今和歌集』 の和本を見つけました。それぞれ一册本で各二〇〇圓。分厚かつたのですが、輕いので求めてしまひました。たしかに、リックに入れて散歩しても負擔になりませんでした。 

 

《東京散歩 じゆんの一歩一》 その第十八回目。ガイドブックにはかうあります。コース名と内容─「坂道めぐり 落合・下落合 新井薬師前駅~高田馬場駅 西武新宿線沿いを流れる妙正寺川の北側を歩く。この周辺は坂道が多く、一の坂から八の坂や富士山が眺められた見晴坂、曲がり角の多い七曲坂など存分に坂を楽しめる。〔所要〕2時間」。

 

スタートは新井藥師前驛ではなく、前回のゴールと同じ高田馬場驛にしました。じつは、齒が痛みだしてきて、晝食もろくに食べられませんでしたので、マーケットで飮む點滴(甘酒とも言ひます)を買つて、飮みながら歩き出しました。 

まづ、驛前の早稻田通りからすぐ脇道に入り、神田川にかかる高塚橋を渡つて直進すると、學習院大學にぶつかりました。ここからはガイドブックとにらめつこ。道順に從つて歩きはじめましたが、まるで山歩きのやうです。最初の坂道が、あとで考へれば一番の急坂だつたのですが、最初から尻込みしてしまひました。 

邊りはいはゆる閑靜な高級住宅地。そんな建物に挟まれるやうにして建つ、「近衞篤麿公記念碑」を訪ねました。コースからは外れてゐるのですが、學習院の第七代院長だつた方のやうですし、長男が近衛文麿ですからね。ちよいと押さえておきませう(註)。 

 

註・・近衞篤麿公記念碑は、下落合二丁目のかつての近衞氏の敷地跡に建てられてゐます。没後、近衞邸が分譲されたとき、このあたりは”目白近衞町”となつたやうです。 

その近衞篤麿は、明治時代後期の華族・政治家で、貴族院議員、学習院院長であり、長男は、内閣総理大臣などを務めた近衞文麿氏です。 

尚、近衞家は、藤原忠通の子基實(兄に九條兼實、弟に慈圓がゐる)を始祖とする五摂家の一つ。江戸時代初期に嗣子を欠いたため、後陽成天皇の第四皇子が母方の叔父・信尹の養子となり信尋として近衛家を継いだ。文麿はその直系十一世孫にあたり、その血統は当時は大勢いた皇族よりもずっと皇室に近かった。 

 

コースにもどり、感じのいいおとめ山公園を横斷し、いよいよ坂道のはじまりでありまして、作られたコースだからですが、まるで阿弥陀籤のやうな進み方です。七曲坂を下り、ボタンの名所といふ藥王院に立ち寄り、さらに石段を上りつめ、久七坂を下り、新目白通りに突きあたつたかと思ふと西坂を上り、霞坂を下つて再び新目白通り。歩道橋の上から歩いてきた方面をながめても、建物が密集してゐるだけでした。 

さて、つづいても急な上り坂です。見晴坂(みはらしざか)と言ひ、富士山が眺められたところのやうですが、上りも下りも同じ坂の名前といふのも珍しい。そこでいつたん平地にもどりまして、山手通りに出ました。道路の下には都營大江戸線が通つてゐるやうです。 

 

そこからがまた珍しい坂の名前がつづきます。ジグザグに、一の坂、二の坂、三の坂、そして四の坂を下る途中で、林芙美子記念館に出會ひました。 

ちやうど三時でしたので、休憩がてら入りました。が、それがまあびつくり仰天のおつたまげでした。こんなに素晴らしい住宅はじめてです。ぼくみたく、木々にかこまれた、平屋で軒先ののびた和風家屋を理想としてゐるものにとつて、ヨダレが流れ出んばかり。そんな驚きは驚きとして隠し、靜かに觀察、鑑賞させていただきました。百聞は一見にしかず、妻を連れてきてあげたいと思ひました。

 

あとは新井藥師前驛までほぼ直線。六の坂だけ上りましたが、七の坂は頂上ふきんを横斷して八の坂に至つたところに、なんと御霊神社がありました。御靈信仰といへば、「人々を脅かすような天災や疫病の発生を、怨みを持って死んだり非業の死を遂げた人間の『怨霊』のしわざと見なして畏怖し、これを鎮めて『御霊』とすることにより祟りを免れ、平穏と繁栄を実現しようとする日本の信仰のことである」 はづです。こんなところに、誰の怨靈を鎭めてゐるのでありませうか。

 

それはさうと、もう一萬歩を越えたでせうか。直線とはいへ、やつと出會へた妙正寺川を渡つてからがつらかつた。新井藥師前驛にどうにか到着して、回りをながめたら、人通りも少なくわびしい感じがして、到着時間と歩數を確認してから、當の新井藥師まで歩いてみました。「新井薬師として知られているが、新井山梅照院薬王寺と号する」お寺。ところが、ここもまたなんとさびしいお寺であることか、「にぎやかな駅前商店街」からして閑散とし、まあ、縁日には込み合ふのでせうが、寒々としてきたので、北野神社前からバスで中野驛へ出て歸路につきました。 

ゴールの新井藥師前驛前には四時ちやうど到着。正味一一〇五〇歩でした。歸宅しての全行程では、一五九〇〇歩。今回も「新發見」がありましたし驚くことも多々。まあ、齒が痛かつたわりにはよく歩けました。自分にハナマルをあげませう。 

 

今日の寫眞・・神保町の古書會館でゲットした、和本の『後撰和歌集』と『新古今和歌集』と、今日の散歩から。