四月廿四日(火)丙戌(舊三月九日) 曇天のち雨

 

昨夜、高橋克彦著 『南朝迷路』 を讀み終へ、つづいて、これまで取り上げてこなかつた、新田義貞について、ちよいと讀んでみました。水上勉著 『義貞記』(原題「藤島の戦い」) です。 

これまで讀んだ 『破軍の星』 にしても、『地獄を二度も見た天皇 光厳院』 にしても、新田義貞にはほとんど觸れてをらず、またはあまりよくは書かれてゐませんでした。むしろ、ダメな武將といふ書き方でした。はたして、水上勉さんの 『義貞記』 は、義貞の眞情に踏み込んで、好意的ではあるのですが、それでもダメ武將の印象は拂拭できてゐませんね。新田次郎さんも書いてゐますが、どうなんでせう(註一)?

 

まあ、とりあへず、北方版南北朝の三冊目、『陽炎の旗』 を讀みはじめました(註二)。讀み出してすぐに引き込まれました。主人公が「虚構のヒーロー」だからでせうか、劍豪小説のやうなはじまりで、歴史小説とは思へません。が、それが、『武王の門』、『破軍の星』 のやうに歴史的出來事に縛られない面白さを生み出してゐるのかもしれません。 

 

註一・・新田次郎著 『新田義貞』 (新潮文庫) 本書は、1976年9月から産経新聞に連載されたものです。筆者は、義貞が凡庸な武将だと片付けられる傾向に不満を覚え、義貞の人間性に惚れ込み、義貞の正当な姿を書き残しておきたくて執筆したそうです。 

上巻は、義貞誕生前の足利家との水争いの話から始まり、元弘の乱で日野俊基が処刑されたところで終わります。下巻は、赤松則祐が新田庄に護良親王の令旨を届けるシーンから始まり、灯明寺畷で討たれるところで終わります。 

著者が義貞に惚れ込んだことが本書を通じて十分に分かり、自己保身しか考えない公卿によって、義貞と正成が滅んだとの考えは興味深い。本書は、著者の思い入れが強すぎるかも知れませんが、鎌倉幕府の滅亡から南北朝に興味のある方に薦めたい。 

また、各章の終りに、その章で取り上げたトピックを数ある資料の中から取り上げた理由と、何が史実で何がフィクションかを解説しているので、とても理解に役立ちます。 

 

註二・・北方謙三著 『陽炎の旗』 (新潮文庫) 時は三代将軍・義満の治世。将軍の従弟にあたる剣の達人・来海頼冬は、血筋ゆえに刺客に追われる日々を送っていた。その前に現われた水軍の頭目父子。彼らは、南北の朝廷を超えて日本の「帝」たらんとする義満の野望を打ち砕くべく、玄界灘一帯で奇襲と抵抗に明け暮れていた。頼冬はそこに、歴史の光明を見出す。南北朝統一という夢を追った男たちの戦いを描く、『武王の門』続編。