九月三日(月)戊戌(舊七月廿四) 雨、曇天のち晴 臺風接近

 

横になつて 〈末摘花〉 を讀みつづけましたが、根氣がつづかず、途中からポーラ・ゴズリングの 『負け犬のブルース』 に切り替へました。すると、ジャズについてのお話があつたり、主人公が、ピアニストの命たる指を砕かれてしまふなどがあつて、いや、このポーラ・ゴズリングさんが多彩な才能をお持ちであることに感心してしまひます。 

とくに、次のやうな描寫は、昨日讀んだ 「戀愛及び色情」 にくらべてみると實に興味深いものがります。

 

「(部屋に)戻ってきた(主人公の)ジョニーは入口で棒立ちになって呆然とみつめた。そこに彼女は坐っていた。ジョニーが “もっとも内気なソーシャルワーカー” ベスト・ワンの有力候補と考えていた彼女が──黒いレースのガーターベルトをはずして、長い形のいい脚を包む薄い黒のストッキングをおろしている彼女は雑誌の折り込みのどんなヌード写真にも劣らずセクシーに見えた。それなのに自分は両手いっぱいにぶざまなピンクの伸縮包帯を持って突ったち、ボーイスカウトの真似事をしようとしているのだ」

 

これは、コンサートの歸りにくるぶしを捻挫した彼女の手當をする場面ですが、「暗い中で、かすかなる聲を聞き、衣の香を嗅ぎ、髪の毛に觸れ、なまめかしい肌ざわりを手さぐりで感じ」るなんてまどろこしい色情發露より、ぼくが西洋風なのか、時代が變はつたのか、壓倒的にセクシーですね。 

いや、こんなことで感心してはゐられません。つぎつぎに事件が起こつて、まだ半分ほどなんですが、先が樂しみでなりません。