十月卅一日(水)丙申(舊九月廿三日) 晴のち曇り

 

運動がてら外出してきました。明後日の西伊豆旅行のための乘車券を買ふためでした。蓮台寺から松崎方面のバスの乘車券も一緒にと思つたので、上野のJTBに行つたところ、若い女性の係が出てきて、地方のバスの乘車券を買ふには千圓以上の手數料がかかるといふのにはびつくり。また伊豆急下田驛までの割引往復乘車券を買ふだけなのに、まあ時間のかかること。もうけつこうと言つて途中で出てきてしまひました。 

それにくらべて御徒町驛のみどりの窓口の若い男性職員は手早く、しかもよくわかる對應で、氣持ちよかつたです。バスは、現地で支佛へばいいと思ひました。

 

出かけたついでに、神田古本まつりにも足をのばしました。まあ、掘出し物を探索する氣分にはなれませんでしたが、驚いたのは、三省堂書店となりのビル五階の「かんたんむ」書店が閉店するといふ知らせです。どうしてなのかご主人に聞きましたよ。すると、疲れたからといふのです。神保町の古本屋のなかで最も安くて掘出し物もしばしば見つかるので重寶してゐたのですが、あれエエ~ですよ。

 

それで、店内の書物すべてが半額だといふので、これまたびつくり。しかし、いざとなると見つからないもので、かういふときにはいつか役に立つ本を探すことにしてゐるので、目をこらすと、二册發見しました。 

一册目は、『続燕石十種 第三巻』(中央公論社) です(註一)。何故目にとまつたかといふと、中に、「色道大鏡」が収められてゐたからです。これはすでに影印本(註二)で入手してゐたからで、翻刻があれば鬼に金棒と思つて購入しましたが、半額の二五〇圓でした。 

しかも、この叢書は、森銑三・野間光辰・朝倉治彦三氏による監修によつて刊行されたものです。たまたまとは言へ、良い本を手に入れることができました。

 

二册目は、これも普段だつたらパスしてゐたかも知れませんが、閉店セールです。思ひきつて買ひました。といつても半額で五〇〇圓。『鼠璞十種』(名著刊行会) といふ箱に入つた上下二册本です(註三)。内容は、『燕石十種』 の影響を受けたといふ、「江戸についての未刊随筆を集めた」もののやうです。 

變體假名で讀む日本文學も、ここまで來ると、ちよいと息苦しいいですかね。いや、新たなる發見はまだまだつづきます、つづけたい。 

 

さう、忘れるところでしたが、『源氏物語〈明石〉』 を讀了しました。明石で世話になつた方々、とくに明石の入道とその娘、明石上との別れは切ないものがありました。 

 

註一・・・『燕石十種』(えんせきじっしゅ) 江戸末期の叢書。達磨屋活東子(だるまやかっとうし)が養父花の屋蛙麿(あまろ)(達磨屋五一)の助けを得て編集したもの。1863年(文久3)成立。「燕石」は玉に似た石、まがい物の意である。『高尾考』(吉原の名妓高尾に関する諸家の考説)以下、江戸時代の興味深い風俗書を集大成したもので、当代の市民社会におけるできごとや世態、人情を知るための、きわめて貴重な資料となっている。写本で伝えられたが、1907年(明治40)国書刊行会によって三巻本として刊行され、以後その続編として『続燕石十種』(2巻)、『新燕石十種』(5巻)が新たに編集、刊行された。また、『燕石十種(正・続・新)』全17巻(197982・中央公論社)』が出てゐる。 

 

註二・・・色道大鏡(しきどうおおかがみ) 江戸時代前期の遊里案内書。藤本箕山著。 18巻。延宝6 (1678) 年成立。全国の遊里を 30年にわたって歩き,集めた資料をもとに,遊里のしきたり,色道の極意,遊所案内,遊女伝などを述べた大作。井原西鶴の好色物などのちの文学へ影響を与えた。 

ぼくの手もとにあるのは、影印本の、藤本箕山撰・野間光辰解題 『色道大鏡 上中下』 (八木書店 1974) です。

 

註三・・・『鼠璞十種』(そはくじっしゅ) 江戸学者三田村鳶魚が江戸についての未刊随筆を集めた叢書。幕末成立の『燕石十種』の影響を受ける。 

 

 

十月一日~卅一日までの讀書記録 (赤文字は變體假名本)

 

十月一日 森銑三著 『思ひ出すことども』 (中央公論社) 再讀 

十月三日 南伸坊著 『オレって老人?』 (ちくま文庫) 

十月四日 松尾芭蕉著 『素龍淸書本 おくのほそ道』 (日本古典文學刊行会) 

十月五日 紫式部著 源氏物語〈花散里〉 (宮内庁書陵部藏 靑表紙本 新典社) 

十月六日 森銑三著 「雲萍雑誌についての疑」 (『雲萍雑誌』 岩波文庫 所収) 

十月七日 杉本秀太郎著 「梅岩と鉄斎」 (『日本の名著18 富永仲基・石田梅岩』 中央公論社、附録) 

十月七日 内藤湖南著 「大阪の町人学者富永仲基」 (『日本の名著41 内藤湖南』 中央公論社 所収) 

十月十一日 森銑三著 『おらんだ正月』 (角川文庫) 

十月十一日 渡邊崋山著 「退役願書之稿」 (『日本の名著25 渡邊崋山・高野長英』 中央公論社 所収) 

十月十三日 日課念佛勸導記』 

十月十六日 飯嶋和一著 『始祖鳥記』 (小学館文庫) 

十月十九日 加藤周一著 『富永仲基異聞―消えた版木』 (かもがわ出版) 

十月廿一日 紫式部著 源氏物語〈須磨〉 (宮内庁書陵部藏 靑表紙本 新典社) 

十月廿二日 富樫倫太郎著 『風狂奇行』 (廣済堂出版) 

十月卅一日 紫式部著 源氏物語〈明石〉 (宮内庁書陵部藏 靑表紙本 新典社)