十一月卅(金)丙寅(舊十月廿三日・下弦) 曇り

 

今日も、心とからだに効く古本散歩、神田と高圓寺の古書會館をはしごしてまゐりました。もう一か所、新宿西口古本まつりといふのがあつたのですが、回りきれませんでした。 

掘り出した和本は、と言ひたいのですが、今回は、まづ、抽籤の結果を知りたくて足を運んだのでありました。神田と高圓寺と五反田の三か所の古書會館からは毎回 「出品書目録」 が送られてきます。そのなかに欲しいものがあれば前もつて注文できるのですが、もちろん注文が重なれば抽籤になります。しかし、ぼくは參加することに意義があると思つてゐるので、今までにほとんど注文したことはありません。

 

ですが、今回は、神田の古書會館の 「出品書目録」 で、眞澄遊覧記の 『伊那の中路』 以外の三册が出品されてゐたのを發見したので、それらを葉書で注文しておいたのです。はたして抽籤に當つたのかどうか、その結果は、三册のうち二册だけが當りました。 

『來目路乃橋』 と 『わかこゝろ』 です。『奥乃手風俗』 ははづれてしまひました。が、もう一册出版されてゐる 『いほの春秋』 とともに、ネットで探して注文したいと思ひました。

 

とにかく、變體假名だから讀みたいのでありまして、和本収集もさう、『源氏物語』 だつて變體假名だから讀んでゐるやうなものです。 

だから、もう一册、これは、高圓寺のはうで、『続国文学複製翻刻書目総覧』 といふを發見したので求めました。すでに正編は入手して活躍してゐるのですが、この本は、例へば、『曽我物語』 を複製(影印・くづし字・變體假名)で讀みたい場合、どこから出てゐるのか、あるいは出てゐないのかが一目瞭然なのであります。もちろん、寫本類は載せられてゐません。あくまでも出版された本といふことですが、變體假名好きには座右の書であります。

 

ちなみに、以下の五册が、柳田國男が主導した「眞澄遊覧記刊行會」から出されてゐる變體假名本の「眞澄遊覧記」です。『菅江真澄遊覧記』 全體からすればほんのひとかけらですが、かうして原文を讀めるのはなんといふ幸せなのでせう。

和歌や國學を學んだからでせうか、著書名は萬葉假名で表現されてをり、また同じ著書でも複數の表記があるのには要注意です。 

 

『委寧乃中路(イナノナカミチ)』 - 1783年(天明3年)3月中旬、信州飯田から天龍川右岸に沿って北行し、中仙道洗馬宿から524日本洗馬に到着し、長興寺近くの釜井庵(かまいあん)を拠点として近辺を遊覧した12月半までの日記。信濃以前の日記は盗賊に盗まれた。釜井庵は現存し本洗馬歴史の里資料館として当時のままの姿で残されている。 

『わかこゝろ』 - 1783年(天明3年)813日から数日間に姥捨山で月を見て、善光寺に参拝した記録。歌が主になっている。 

『いほの春秋(イオノハルアキ)』 - 1784年(天明4年)春に本洗馬の可摩永(釜井)という家で、信濃国に来てから経験した一年間を四季折々の自然の推移と人生の諸相を織りまぜて随筆風に描いた作品。本洗馬の民俗が記録されている。 

『來目路乃橋(クメジノハシ)』 - 1784年(天明4年)6月末に本洗馬を発って、清水の里、桐原の牧、筑摩の湯を見て、有明山の麓を通り、登波離橋を訪れ、曲橋を渡り、姨捨山を越えて善光寺に参拝して戸隠山に登り、730日に越後との境まで出た紀行文。曲橋を久米路の橋ともいうところからこの書を名付けたとある。 

『奥乃手風俗(オクノテブリ) - 1794年(寛政6年)正月に田名部に滞在して土地の風俗や行事を記録する。9日より菊池成章と和歌のやりとりをする。22日より栗山村から恐山に登る。氷った宇曽利湖の湖上を歩いて渡り、小尽山の小屋で木こりと一緒に杣小屋で眠る。山から降り、城ヶ沢の海岸に着いたところで筆を置いている。

 

 

十一月一日~卅日までの讀書記録 (赤文字は寫本・變體假名本)

 

十一月四日 小松茂美著 『平家納経の世界』 (中公文庫)  

十一月五日 對談 松田道雄・加藤秀俊 「現代に益軒を読む意味」 (『日本の名著14 貝原益軒』 附録 中央公論社) 

十一月八日 中井甃庵著 『とはすかたり(不問語)』 享保十三年(一七二八年)刊 

十一月十一日 大石慎三郎著 『徳川吉宗とその時代 江戸転換期の群像』 (そのうち 〈第一部 将軍吉宗と尾張宗春〉 中公文庫) 

十一月十一日 師岡佑行著 「懐德堂─中井甃庵」 (奈良本辰也編 『日本の私塾』 所収 角川文庫)) 

十一月十二日 小林茂美著 『かな─その成立と変遷─』 (岩波新書)  

十一月十二日 杉靖三郎著 「貝原益軒」 (角川書店編 『日本史探訪16 国学と洋学』 所収) 

十一月十六日 對談 大久保正・吉川幸次郎 「宣長のこころ」 (『日本の思想〈第15卷〉 本居宣長集』 別册 筑摩書房) 

十一月十八日 芦原伸著 『へるん先生の汽車旅行 小泉八雲と不思議の国・日本』 (集英社文庫) 

十一月廿二日 中津文彦著 『天明の密偵 小説・菅江眞澄』 (PHP文芸文庫) 

十一月廿五日 秋元松代著 『菅江眞澄 日本の旅人9 常民の発見』 (淡交社)