十二月八日(土)舊十一月二日(甲戌) 

 

『正史實傳いろは文庫 巻之一』 讀了。たぶん、忠臣藏の本筋からはだいぶ離れたはなしになつてゐるのではないかと思ひました。忠臣藏を知つてゐる人のためで、これをもつて忠臣藏を知らうとするぼくみたいなのには、ふさわしくないやうです。でも、話としては面白かつたです(註)。 

 

註・・・『いろは文庫』 1836年から1872年にかけて刊行された。内容は、忠臣蔵の物語をもとに赤穂義士外伝を人情本的(庶民の色恋をテーマにした読み物)に脚色したもので、著者は当時より人情本の代表的作者として活躍していた為永春水、絵師は江戸後期に美人画で一斉風靡した渓斎英泉という豪華さです。 

 

それと、昨日見學した國文學研究資料館の展示の中に、『今物語』 と 『野守鏡』 といふ説話集がありました。『今物語』 のはうは、「地獄に落ちた紫式部の亡靈が現れて供養を求めた」と言ふはなし。『野守鏡』 は、「石山寺の観音が紫式部の祈念に応えて 『源氏物語』 の梗概を示したという(紫式部と石山寺とが結びついた)霊驗譚を記す」といふ展示内容でしたので、讀んでみたくなりました。

 

探してみたら、兩方とも 『群書類從 第二十七輯 雑部』 のなかに収録されてゐました。が、さらに調べたら、版木(重要文化財)で「摺り立て」された 「元版群書類従特別重要典籍集」 にも見つけました。 

またそれとは別に、『松平文庫影印叢書7 中世説話集編 唐鏡/唐物語/今物語』(新典社) のなかにも 『今物語』 は見つかりましたが、どうせ讀むなら、和本仕立てのはうがいいので、『今物語』 のなかの 「源氏供養」 を讀みました。といつてもたつたの十行たらずの短文です。でも、これだけ讀んだのでは面白味は感じられませんでしたね。 

『今物語』(註) と 『野守鏡』(註) については、説話集として通して讀んだはうがいいかも知れません。 

 

註・・・『今物語(いまものがたり)』 鎌倉時代中期の説話集。全一巻、五十三話。編者は画家および歌人として高名だった藤原信実 (のぶざね) と伝えられる。延応1 (1239) 年以後まもなくの成立か。対象とする時代は鳥羽院政期~鎌倉時代初期まで。書名は当代の語り草を集めたという意。長短とりまぜ、宮廷や寺院の挿話が主で、多くは和歌や連歌にまつわる文学説話だが、神仏の霊験談、僧侶の失敗談などを簡潔流麗な和文体で記す。 

 

註・・・『野守鏡(のもりのかがみ)』 鎌倉時代の歌論。作者は,源有房,天台僧(氏名不詳)など諸説がある。1295(永仁3)9月に成立。書写山(播磨の円教寺)に参詣したおりに住僧から聞きえた話を紹介するという趣向は、《大鏡》などと同巧。上下2巻から成り、上巻では二条派的な平淡美を重んじる歌論を説き、京極派、とくに為兼を批判、下巻ではおもに宗教論を述べ、禅宗や浄土宗を非難している。反京極派の歌論として、また仏教思想史上の資料として貴重。 

 

今日の寫眞・・・『今物語』 のなかの「源氏供養」。〈三八〉と頭注した九行がさうです。「元版群書類従特別重要典籍集」 と 『松平文庫影印叢書7 中世説話集編』 の二例です