五月四日(金)丙申(舊三月十九日) 曇りのち晴

 

今日は歩いてきました。目的は二ヶ所プラス一。今日からはじまつた神保町と高圓寺の古本市と、町田の柿島屋です。 

古本市は、お勉強のためですので、よほど掘出し物でないと買はないことにしてゐるのですが、それにしてもなかなかいい本は見つかりません。 

古本屋通ひは、どんな本と出會ふかが最大の樂しみであり、目的です。それによつて、勉強の方向といふか内容が、どれだけ變へられ、また深まつたことか、自分の日記を振り返るとよくわかります。 

讀みたい本を探して讀むのが普通なんでせうが、出會ひによつて讀まされることの多かつたことを振り返へつてみると、むしろ、何かに導かれてきたと言ふはうがいいかも知れません。まさか漢文やくづし字を讀むなんて、思ひもよらないことでした。 

また、古本漁りは歴史探索そのものと言つてもいいくらいです。新本で賣られてゐるものなんて、氷山の一角にしか過ぎません。古本市をのぞけばわかるやうに、ええ! こんな本があつたの、といふ喜びと期待で胸も高鳴ることしばしばです。「押せば命の泉湧く」ではありませんが、生きる希望と意欲を與へてくれること間違ひなしです。はい。 

それを知つてでせうか、妻のお咎めもゆるやかになつてきたやうに感じます。

 

それで、今日の収穫は、長谷川和子 『源氏物語の研究 成立に関する諸問題』(東寶書房、昭和三十二年) と、楠本憲吉著 『「犬筑波集」の研究』(バズ出版、昭和五十三年) の二册でした。 

楠本憲吉さんは、ぼくが學生の頃、イレブンPMに出てゐたのを見て知つてゐましたが、まさか、ご立派な俳句の人だとは、のちになつて知つたしだいでありました。その憲吉さんが、また、『犬筑波集』の研究家であつたなんて、今日この本を手にして知りました。これが一千圓。ちよいと高價でしたが、お勉強のための必要經費とします。 

また、長谷川和子 『源氏物語の研究 成立に関する諸問題』 のはうは、現在中斷してゐる 『源氏物語』 をいつ讀みはじめてもいいやうに、その呼び水となつてもらふためでした。それが二百圓。

 

で、今日は荷物も少なく、新宿驛から小田急線で町田に行き、さう、久しぶりに東急ハンズにも立ち寄りました。北口驛前に移つてきてからはじめて入りましたが、抜群の規模を誇つてゐた以前のハンズが懐かしく思ひ出されました。 

それから柿島屋へ、今日は「馬刺し上」を二皿食べてしまひました。歸宅したら、七五〇〇歩でした。 

 

註・・楠本憲吉(くすもとけんきち) 19211219- 19881217日 俳人、随筆家。 

大阪府生まれ。実家は料亭・なだ万。灘中学校 (旧制)を経て(同級に遠藤周作)、慶應義塾大学法学部卒業、さらに学士入学で仏文科卒業。在学中、1945年より句作を始め「慶大俳句」を組織し、日野草城に師事。卒業直後、作品「疲れた町」が新俳句人連盟の『俳句人』19482月号の特別作品に選ばれる。のち草城の「青玄」無鑑査同人となる。 

俳誌「野の会」を主宰し、俳句作家連盟会長、現代俳句協会顧問、東横学園女子短期大学客員教授を歴任。一般向けの随筆も多く、女性論、家族論、手紙、食事、酒など話題が豊富で洒脱な語り口ゆえ、テレビにもしばしば出演した。