七月六日(金)己亥(舊五月廿三日) 雨降つたりやんだり、肌寒い

 

『源氏物語』〈帚木〉の卷、やつと後半に入つてきました。靑表紙本」で言ふと、再開後、全一三二頁のうちの五一頁から讀みはじめて、ちやうど一〇〇頁まで讀みました。〈雨夜の品定め〉が終はつたのが八五頁でしたから、とても長い女性の「品定め」と男性三人の體驗談といふか失敗談でありました。ただ、藤壺のことで胸がいつぱいの源氏にとつてはどうでもいいはなしのやうでありました。 

ただ、參考書には、〈雨夜の品定め〉が、「源氏の女性遍歴の序を占める」なんてありましたから、他人事の話であることと、二重の含みといふか伏線を加味した叙述といふ、けつこうな技巧をこらした内容であるやうに思はれます。

 

つづいて、後半の物語に入ります。源氏の「女性遍歴」のその一端を擔ふ、甘酸つぱいおはなしであります。 

まづ、久々に妻の實家・左大臣家へ足を向けますが、そこで、その夜は方角的にここに泊まるのはよろしくない日だと判明し、やむをえず方違へ(かたたがへ)をいたします。 

方違へには紀伊の守の邸宅が選ばれ、そこで、偶然にも紀伊の守の父・伊豫の介宅の女性たちも方違へに來てゐたのに遭遇し、氣の毒な身の上のかはいらしい小君(こぎみ)の姉が、伊予の介の後妻・空蝉であることがわかり、源氏は俄然關心をもちはじめます。 

 

ところで、方違へに紀伊の守の邸宅が選ばれるにあたつて、「忍び忍びの御方違へ所は、あまたありぬべけれど」 なんていふ言ひ回しがありました。つまり、方違へが「お忍び」の外泊をするときに都合よく使はれてゐたことがわかります。 

さういへば、『蜻蛉日記』 にも、作者・道綱母の夫・藤原兼家が、方違へを理由に、「例の女」のところへ出かけて行つた場面が出てきましたね。 

 

〈帚木〉の卷とともに、今日は、通販で求めた 『オールド・ディック』 の著者L・A・モースの二作目を讀みはじめました。題は 『ビッグ・ボスは俺が殺る』。七十八歳の老いぼれ探偵とは正反對の、「ロサンジェルスのタフガイ探偵サム・ハンターが巨大な犯罪組織に戦いを挑むハードボイルド作品」であります。「読みだすと、やたらと女が脱ぎ、男が死にまくる荒唐無稽な内容に辟易してしまうかもしれません。この過剰な演出はミッキー・スピレインやカーター・ブラウンといった通俗ハードボイルド作家へのオマージュとパロディなのです」、と、まあ期待させるではありませんか。