十二月廿一日(土)舊十一月廿五日(壬辰 晴

 

今日はまた昔懐かしい方と會つてきた。先日は、大學時代の友人だつたけれど、今日は、ぼくが田舎牧師になりたてのころ、小笠郡浜岡町池新田の敎會で、はじめて洗禮をさづけた女性でした。その時その方はまだ高校生、といふか卒業間際で、卒業後は遠く堺の地へ進學してしまつたので、それ以來、もう三十七年、いや三十八年になるのか、なんといふ時のへだたりか! 

現在は三重縣松坂市に住んでをられ、研修を受けるための上京だといふ。會場が醫師會館といふから、どんな内容の研修なのか、まあ、とにかくどんな顔をして會つたらいいのか、ちよいと不安だつた。そこで、到着する新幹線のホームまで出迎へ、お會ひしたけれども、すぐにわかつたのはなんといふ不思議! 變はつてゐるやうなゐないやうな、すぐに打ち解けられたのもまた不思議。

 

東京驛はすごい人出で、かき分け避けながら有樂町驛まで行き、さらに銀座まで歩いたのだが、さう、クリスマスの季節だつたのだ。イルミネーションやら飾りつけやらで街は人だらけ、それでも天龍には五時前に入れたので、すぐに席につくことができた。 

例の天龍である。まづは餃子を注文、生ビールで乾杯してからは、積もり積もつたといふか、話してゐると連想的に湧き出てくる話題をしやべるのに時間も忘れ、エビチリを注文するのも忘れ、餃子だけで満腹。店を出るときには、入口のロビーのみならず、エレベーターを降りた下の階にまで人が並んでゐたのにはびつくりしてしまつた。 

銀座をぶらり、中央通を四丁目まで歩き、敎文館に案内。コーヒーを飲み、クリスマスの飾り物などを見て買物、三階のキリスト教書賣場では、二册ばかり本をお薦めした。 

 

*懐かしい敎會の寫眞。着任したての頃と、一九八二年三月二十一日の洗禮式後

 


 

十二月廿二日(日)舊十一月廿六日(癸巳・冬至 曇天

 

今日は朝から晩まで、といふか寢る間際まで本の整理に精出す。基本的に和本と影印本などは殘し、當座は讀むことのないものを選り分けた。これに時間がかかつたが、大工さんが明日の朝來てくれるから、それまでに詰めるだけ詰めないと運んでもらへないからだ。いつたい何かごになつたらうか、詰めるだけ詰めたけれど、見ると本棚のなかの本の量はほとんど變つてゐない。 

 

 

十二月廿三日(月)舊十一月廿七日(甲午 曇天のち晴

 

本がかたづいた。と言つても、かごといふかみかん箱といふか、それで約五十箱分の本を、中村莊の空いた一室へ移動しただけなのだが、大工さん、奥さんと助つ人の三人で來られて、たつた一時間で運び終へてしまつた。 

それで書齋と隣りの書庫ががら空きになつたかと言ふとさうでもない。本箱のなかの本はひと通りつまつてゐるし、まだ床にもいくぶんかは積まれてゐる。でも風通しはよくなつたやうで、空間も明るくもなつた。猫たち、とくにグレイは飛び回る本の山がなくなつたので、ちよいと物足りなささう。 

といふことで、一氣に動いたのでだいぶ息が切れた。明日は定例の通院なのに、心臟がちよいとパクついてゐる。午後は横になつてすごした。

 

 

十二月廿四日(火)舊十一月廿八日(乙未 晴のちくもり

 

今日は通院日。ところがまた千代田線で事故だか故障だかがあつて、新御茶ノ水驛で停車したきり動かなくなつてしまつた。通勤時間をすこし過ぎてゐたけれどもみな当惑顔。ぼくは檢査の時間が迫つてゐたので、地上に上がつてタクシーで慈惠大病院まで急いだ。が、餘分な出費には困つてしまふ。 

とはいへ血液檢査に心電圖、今日も込み合つてゐて、だいぶ待たされた。でも、みか先生の診察を受け、このひと月の、例のインフルエンザのワクチンを打つてもらつたこと、のどに違和感を感じた次の日に高熱を發したこと、ところがセキもタンもでなかつたのでたいへん樂だつたこと、そして、また近ごろ食欲がないこと、さらに、この二、三日心臟がパクついてゐることなどを報告して、檢査の結果かからの診斷をいただいたのだが、なんと心電圖の結果は通常よりも良好であり、その他の値にも問題がないとのこと。 

ただ、「中村さんの心臟はふつうではないのだから十分に注意して過ごすやうに」と釘を刺されてしまつた。

 

歸路、病院の地下のそば屋で晝食。その後、地下鐵に乘るために御成門驛まできたところ、芝公園のなかがなにやらざわついてゐたので入つてみたら、〈東京クリスマス・マーケット〉とかいふ催しものが開催されてゐたのでのぞいてみた。まるでビヤホールといふか屋臺村といふか、カップルや家族連れでにぎはつてゐる。ぼくも、ドイツ風ビーフシチューとやらをいただいてみたがそれほど美味いとは言へない。まあ、一人でくるところではないなと思つた。

 

それから神保町まで行き、例の鎌田さんの新刊書を買ふために、岩波書店アネックスに入り、本を求めたついでにコーヒーを飲みながら休憩。店が改装されてからはじめて入つてみたが、外人客が多く、いや名前は忘れたが作家の顔も見られた。 

 

歸宅後、澤田ふじ子の、まだ未讀の文庫本を整理して、讀む順番を決める。 

 

『源氏物語〈少女〉』、夕霧があまりにも父親と違ひ、純愛に生きる若者なのだと感心したばかりだが、なに、次の場面では、父親・光源氏の乳母子で家司である惟光の娘が舞姫となつて、舞臺へ出る、その出番を待つてゐる姿を見てひと目ぼれしてしまふのである。まあ、あの親にしてこの子ありか! 

 

*芝公園の〈東京クリスマス・マーケット〉會場から見た慈惠大病院。かつて、ぼくが入院した部屋のある病棟だ!

 


 

十二月廿五日(水)舊十一月廿九日(丙申・クリスマス くもり

 

昨夜歸ると、信州佐久から弟が出てきてゐて、三日泊まつていくといふ。

 

ぼくは今日は寢てよう日。横になつてうとうとと讀書。それでも、栗田勇さんの 『一遍上人─旅の思索者─』 を讀み進み、ついに讀了。だいぶ時間がかかつたが、なにせ緊張の連續といふか、息つくひまのないくらゐ密度の濃い内容だつた。當然ぼくの思ひ描いてゐた内容ではなく、はじめから一遍像を構築していかなくてはならなかつた。それで、まだ讀み足らない氣がしてゐる。 

 

 

十二月一日~廿五日 「讀書の旅」   ・・・』は和本及び變體假名本)

 

十二月四日 紫式部著 『源氏物語二十〈朝顔〉』 (靑表紙本 新典社) 

十二月四日 『宇治拾遺物語 卷第一』 (第一話~第十八話) 

十二月五日 佐々木譲著 『代官山コールドケース』 (文春文庫) 

十二月七日 山本登朗著 『伊勢物語 流転と変転 鉄心斎文庫が語るもの』 (ブックレット〈書物をひらく〉⑮) (平凡社) 

十二月七日 觀世左近著 『井筒』 (觀世流大成版 檜書店)  

十二月八日 深澤七郎著 『みちのくの人形たち』 (一九七九 夢屋書店) 

十二月八日 深澤七郎著 『秘戯』 (一九七九 夢屋書店) 

十二月十一日 藤沢周平著(著作順一八) 『神隠し』 (新潮文庫) 

十二月十三日 佐々木譲著 『制服捜査』 (新潮文庫) 

十二月十九日 藤原智美著 『暴走老人!』 (文春文庫) 

十二月廿五日 栗田勇著 『一遍上人─旅の思索者─』 (新潮文庫)