「讀書の旅」 二〇二〇年八月(葉月)一日~卅一日

 

八月一日(土)舊六月十二日(丙子) 晴

外山滋比古著 『「読み」の整理学』 (ちくま文庫) 讀了。

 

 

八月二日(日)舊六月十三日(丁丑) 晴

昨夜、外山滋比古さんの 『「読み」の整理学』 を一氣によんでしまつた。ところが、これは、以前にもよんだことがあるかもしれないと思つた。

「取扱説明書や役所へ提出する書類を読んで、何がなんだか分からない、という経験はないだろうか? 自分の知らないこと、未経験の内容の文章は読むのは難しい、それに比べ、知っていることが書かれている文章は簡単に読める。実は読み方には二種類あるのだ。論文など未知を読むベーター読みと既知を読むアルファー読み。頭脳を刺激し、読書世界を広げるベーター読みを身につける方法とは? リーディングの新しい地平をひらく書」

と、裏表紙にはあるのだけれども、現実的にはあまり役にたたないなと思つたことが、以前の記憶を呼び覺ましたやうなのだ。

たしかに、わかりやすい本ばかりよんでゐたのでは、つまり「既知を読むアルファー読み」ばかりしてゐたのでは、深い鑑賞によつて味はふ喜びはない。あたらしい世界を切り開いてゆく力をつけるためには「未知を読むベーター読み」を身につけなければならないのである。そのためには、素讀のやうな讀み方や、「古典の暗誦」が缺かせないといふ。

そもそも、母親にどのやうなことばをかけてもらつて育つたか、學校でどのやうな敎育がなされたかといふことが大問題なのだが、わからないものをくりかへしよむ訓練がなされないと 「さうか、わかつた」 といふよろこびを味はふことはないのだから、習慣的に「アルファー読み」ばかりを樂しんでゐるだけでは、ほんとうの讀書をしてゐることにはならないのである。といふことはよくわかつたが、だからといつて、「取扱説明書や役所へ提出する書類」がよめるやうになるかといふと、さうはいかないのではないかと思つた。

〈今こそ素読を〉の項の、「素読では、わからぬということがわかっている。これがベーター読みへの原動力となる。アルファー読みは、わかることはわかっても、わからぬことがわからない」、なんてところは、ちよいと禪問答のやうであるが、このひとことに本書のエッセンスがつまつてゐる。

 

 

八月三日(月)舊六月十四日(戊寅) 晴

藤沢周平著 『驟り雨』 再讀。

靑砥驛から北総線に乘り、新鎌ケ谷驛のアクロスモール新鎌ヶ谷店で昨日から催されてゐる古本市をたずねた。文庫本四册購入。

 

 

八月四日(火)舊六月十五日(己卯・望) 晴、暑い

昨夜、藤沢周平の著作順で二十一番目の 『驟り雨』(新潮文庫) を讀了(再讀)。一九九三年八月に讀んでゐるから、二十七年ぶりだが、この短編集には記憶がある。とくに表題の「驟り雨」は感銘を受けた作品で、これだけを何度讀み返したことだらう。つづいて 『橋ものがたり』 をよみはじめる。

また、『源氏物語〈若菜上〉』 もすこしづつよみ進む。朱雀院が出家するにあたり、「母親のいない女三の宮」の行く末を案じて、だれを後見役(婿)につけたらいいか、夕霧や乳母たちに相談してゐるところである。

 

 

八月五日(水)舊六月十六日(庚辰) 晴、暑い

今日も暑かつた。ところが、猫たちは思ふほど暑がつてはゐなささうである。そんな猫たちにまとわりつかれながら、當然讀書はすすまず。でもなんでかはいいのだらう。

 

 

八月六日(木)舊六月十七日(辛巳・廣島原爆記念日) 晴、暑い

書齋だか猫部屋だか判別がつかなくなつたソファーにもたれて、今日も一日讀書三昧。

 

 

八月七日(金)舊六月十八日(壬午・立秋) 晴のち曇天

先日よんだばかりの、外山滋比古さんが亡くなつた。「7月30日、胆管がんで死去。96歳」、だつたといふ。

藤沢周平著 『橋ものがたり』(新潮文庫) 讀了(再讀)。つづいて、『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』 を讀みはじめる。

 

 

八月八日(土)舊六月十九日(癸未) 曇天のち晴、暑い

今日の古本散歩は、神保町と高圓寺の古書會館をはしごした。多少は心配したけれど、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」ともいふし、注意怠ることなく見て歩いた。ところが、そのわりにはいい本が見つからず、神保町のはうでは収穫ゼロ、高圓寺でも、歸り際に次の二册が目にとまつただけであつた。

小松英雄著 『徒然草抜書 解釈の原点』(三省堂) 三〇〇圓

美川 圭著 『院政 もうひとつの天皇制』(中公新書) 一五〇圓

 

 

八月九日(日)舊六月廿日(甲申・長崎原爆記念日) 晴、暑い

藤沢周平著 『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』(新潮文庫) 讀了。奥書をみたら、一九九四年につづいて二〇一三年にも讀んでゐる。これで三讀めだが、まつたく新鮮! つづけて何册もよんできたが、人間が信じられる氣持にさせられる。

南柏で求めた、高嶋哲夫著 『トルーマン・レター』 (集英社文庫) をよみはじめる。

「なぜ原爆投下はなされたのか―――!?  元新聞記者の峰先は33代米大統領トルーマンの私信を入手、それは広島・長崎の原爆投下に関する内容だった。手紙を巡り、峰先は国際諜報戦に巻き込まれる。歴史の闇に迫るサスペンス」

 

 

八月十日(月)舊六月廿一日(乙酉) 晴

高嶋哲夫著 『トルーマン・レター』(集英社文庫)、一氣に讀了。つじつまが通つてゐて、リアリティーが感じられた。文庫本なのに、なぜか著者の署名がなされてゐた。いままで三、四册よんできたけれどみな面白かつた。

つづいて、これも先日求めたばかりの、『サザンクロスの翼』(文春文庫) をよみはじめる。これも面白さうだ。

 

 

八月十一日(火)舊六月廿二日(丙戌) 晴、蒸し暑い

 

 

八月十二日(水)舊六月廿三日(丁亥・下弦) 晴のち雷雨

昨夜、高嶋哲夫著 『サザンクロスの翼』 讀了。『トルーマン・レター』 とともに太平洋戰爭がらみの内容だけれども、主役はゼロ戰とダコタと言つてもよく、シリアスでもあり、じつに面白かつた。最後の部分は胸があつくなつた。

1945年夏、いまや日本は敗戦寸前。何もかも失い特攻でも死にそびれた男・漂着した島で孤独に暮らしていた整備兵・そして闇の運び屋をしている女―。それぞれの思惑を抱えながら、水上仕様に改装されたオンボロ輸送機(ダコタ)で、南太平洋の空を駆ける。長く植民地支配を受けたこの地の自由と独立のために。胸すく大活劇」

 

午後、NHK・BSPで 『史上最大の作戦(The Longest Day)』 を見た。白黒映畫だつたのであらためておどろいたが、制作は一九六二年、ぼくが中學三年生のときだ。だから、映畫をみて讀んだのか、讀んでから映畫を見たのかは忘れたけれど、この原作(コーネリアス・ライアン 著 『史上最大の作戦』)を讀んだことは今でもよくおぼえてゐる。現在ではハヤカワ文庫で出てゐるやうだけれど、當時出版された翻譯本は子どもがよむ本とは言ひがたく、それでもよみ通せたことはうれしかつた。

194466日、人類史上かつてない大規模な上陸部隊が、ノルマンディの海岸を埋めつくした。連合軍の全兵力を結集したヨーロッパ反攻作戦が、ついに開始されたのである。要塞地帯を突破されて総崩れとなったドイツ側は、この日を境に、急速に敗北への道を歩んでいく。同名映画の原作としても有名な本書は、全世界の運命を決した24時間の激戦をドラマティックに再現した戦記物語の不滅の名作である」

 

 

八月十三日(木)舊六月廿四日(戊子) 晴のち夕方には激しい雷雨

『宇治拾遺物語 卷第九』 をよみはじめた。その第一話 〈瀧口道則術を習ふ事〉 からして奇怪なはなしで、「とにかく猟奇的でこっけいでセクシーでもあり、説話として」この上ない面白さなのである。

それと、藤沢周平の「獄医立花登手控え」シリーズをよみはじめる。

 

 

八月十四日(金)舊六月廿五日(己丑) 晴のちうすぐもり

今日も暑い。エアコンは除濕にし、多少汗をかくくらゐにして、『宇治拾遺物語 卷第九』 と 『春秋の檻 獄医立花登手控え』 を、一話ごとに交互によみすすんだ。『春秋の檻』 は二十八年ぶりの再讀だが、けつこうスリリングで面白い。

 

 

八月十五日(土)舊六月廿六日(庚寅・敗戰記念日) 晴、蒸し暑い

『春秋の檻』 につづいて 『風雪の檻』 讀了(再讀)。「本卷には第一話〈老賊〉を始めとして全五話が収めてあるが、時代小説というものの面白さ・良さというものを読者に滿喫させてくれる佳篇ぞろいである」、とは解説者のことばだが、まことにそのとおり。いいものは何度よんでも面白いのだとおもつた。つづいて 『愛憎の檻』 に入る。

 

 

月十六日(日)舊六月廿七日(辛卯) 晴、暑い

『宇治拾遺物語 卷第九』 讀了。この卷はあまり面白くなかつたが、とくに第四話 〈くうすけが佛供養の事〉 は不快だつた。讀んでゐて、毛倉野生活で唯一不愉快なめにあつたことがまざまざと思ひうかび、讀むに耐へなかつた。

 

 

八月十七日(月)舊六月廿八日(壬辰) 晴、暑い

昨夜、『愛憎の檻』 がよみ終り(再讀)、つづいてシリーズ完結篇の 『人間の檻』 に入る。

今日はまた、南柏驛前ビルではじまつた古本市にでかけた。小さな市だが、古本散歩にはちやうどいい。だから、買ひ込むつもりはなく、求めたのは一册のみ。藤沢周平の著作は文庫本ですべて揃へたつもりだつたのだが、最後のエッセイ集 『帰省』(文春文庫) は忘れてゐたやうで、目についたときにあれと思つたのだつた。歸宅してしらべたら、たしかに求め忘れてゐたことがわかつた

また、先日求めた、小松英雄著 『徒然草抜書』 を數日前からよみはじめた。といつても本格的に 『徒然草』 をよむためではなく、まるで「推理小説のようだ」と批評されてゐる小松先生の論述そのものに引き込まれたといつてよい。數年前から小松先生のには絶えず知的刺激を受けてゐるが、まあ、毎日でなくても、ついでに 『徒然草』 の傳本の復刻本をかたはらに、少しづつよんでいきたい。

 

 

八月十八日(火)舊六月廿九日(癸巳) 晴、今日も暑い

今日も讀書。『人間の檻』 讀了(再讀)。なんと言つてもよませるし、おもしろかつた。とくに、ぼくは二册目の 『風雪の檻』 がよかつたやうにおもふ。

 

 

八月十九日(水)舊七月朔日(甲午・朔) くもりのち晴

外出(通院)の今日は、新書本の 『院政 もうひとつの天皇制』 を持つて出た。先日讀んだ 『藤原賴通の時代』 よりわかりやすく、しかも「鎌倉後期の院政」まであつかつてゐる。

 

 

八月廿日(木)舊六月卅日(甲午) くもり一時晴

終日讀書。ただし、午前中はねころんでうとうと。午後は、ねこ部屋のソファーでこれまたうとうとで、よめたのはわづか。

それでも、『院政』 とともに、『源氏物語〈若菜上〉』 もすこしづつよみ進む。光源氏が、朱雀院に泣きつかれ、「女三宮といふ内親王」をもらはざるをえなくなつたそのことを、最愛の紫上に語る場面である。いよいよ緊張感が高まつてくる。

 

 

月廿一日(金)舊七月三日(丙申) 炎天

『院政』 が面白くなつてきた。やつと半分、後白河法皇と平清盛とのかんけいについてのところでは、今まで學んできたことがうそのやうな展開なのである。いや、ぼくの理解が淺薄だつたからかもしれないけれど、それだけに頭腦がついていくのに精いつぱい、アイスノンで冷やし冷やしよむすすむ。

 

 

八月廿二日(土)舊七月四日(丁酉) 炎天のち曇天、雷

美川 圭著 『院政 もうひとつの天皇制』(中公新書) 讀了。じつに内容が濃かつた。讀んでゐて、新しく學んだこと以上に、今までの淺薄な知識の變更をせまられた! むろん、『平家物語』 の時代についても敎へられて有意義だつた。

本書の内容・・・「院政とはすでに譲位した上皇()による執政をいう。平安後期には白河・鳥羽・後白河の三上皇が百年余りにわたって専権を振るい、鎌倉初期には後鳥羽上皇が幕府と対峙した。承久の乱の敗北後、朝廷の地位は低下したが、院政自体は、変質しながらも江戸末期まで存続する。退位した天皇が権力を握れたのはなぜか。その権力構造はどのようなものであったか。律令制成立期から南北朝期まで、壮大なスケールで日本政治史を活写する」

 

 

八月廿三日(日)舊七月五日(戊戌・処暑) 朝雨、のち晴

 

 

八月廿四日(月)舊七月六日(己亥) 晴のちくもり

終日讀書。

昨日よみはじめた、藤沢周平著 『闇の傀儡師(上)』 を讀み終へ(再讀)、(下)も夜には讀了(再讀)。面白くて途中でやすむ氣にならなかつた。

 

 

八月廿五日(火)舊七月七日(庚子) 晴

終日讀書。『源氏物語〈若菜上〉』、三分の一ほどよみすすみ、光源氏が、たうとう朱雀院の娘、女三宮を嫁にもらひ、第一の席を奪はれた紫の上の心中が語られる場面。

また、藤沢周平著 『闇の傀儡師(下)』 讀了(再讀)。つづいて 『隠し剣孤影』 をよむ。

 

 

八月廿六日(水)舊七月八日(辛丑・上弦) 晴ときどき曇り

今日も一日だらだらと讀書。藤沢周平著 『隠し剣孤影抄』 讀了(再讀)。つづいて 『隠し剣秋風抄』 に入る。

 

 

八月廿七日(木)舊七月九日(壬寅) 曇天一時雨、のち晴

昨日、服部さんからメールがあり、本を紹介してくださつた。しかし、買ふほどでもなかつたので、お借りすることにして、その本を今朝、靑戸の服部さんの自宅まで受け取りに行つた。

それは、日本クリスチャンアカデミー関東活動センター編 『次世代への提言! 神学生交流プログラム講演記録集』(新教出版社) といふ本で、神田健次君も書いてゐて、そこにぼくの名前も出てゐるよと言つて、すすめてくれたのであつた。

その内容は、講演會で述べたいはば神田君の自叙傳であつて、ぼくとの出會ひ以降、とくにぼくが淸水へ移つた以後の彼の經歴を讀んで、まあよく勉強してゐること。まるで遊んでゐたぼくの人生とは正反對。えらいと思つた。

 

 

八月廿八日(金)舊七月十日(癸卯)  晴、暑い

午前中、美知子が借りてきたDVD、『マザーレス・ブルックリン』(原題:Motherless Brooklyn)をみる。冒頭、なんだかやはな映畫だなと思つたけれど、しだいにひきつけられてしまつた。主演の探偵が監督だといふのはあとで知つたが、いい味を出してゐた。

これは、「2019年に公開されたアメリカ映画で、監督・脚本・製作・主演をエドワード・ノートンが務めた。本作はジョナサン・レセムが1999年に発表した小説 『マザーレス・ブルックリン』 を原作としている。出演者は、エドワード・ノートン、ブルース・ウィリス、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォー他」

また、夜は、アマゾンで、“ミッション・ワイルド” をみた。

 

 

八月廿九日(土)舊七月十一日(甲辰)  晴、暑い

昨夜、藤沢周平著 『隠し剣秋風抄』 讀了(再讀)。つづいて、柴田錬三郎の 『最後の勝利者(上)』(新潮文庫) をよみはじめる。

午後、今日は、アマゾンで、“ロシアン・スナイパー” をみた。ナチス・ドイツに對して、當時はロシアとアメリカが仲がよかつたことをあらためて知つた。

「『ロシアン・スナイパー』(原題:ロシア語: Битва за Севастополь)は、2015年制作のロシアの戦争映画。第二次世界大戦中に計309人のナチス・ドイツ兵(ファシスト)を射殺し、“死の女”と恐れられたソ連の女性狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの姿を描く」

 

 

八月卅日(日)舊七月十二日(乙午)  晴

ソファーベッドでリラックス。暑くて讀書もままならないが、それでも 『最後の勝利者(上)』 をよみすすむ。夕方シャワーをあびて、髪の毛も洗ふ。それからは寢床で讀書。そして、『最後の勝利者(上)』 讀了。

 

 

八月卅一日(月)舊七月十三日(丙午・二百十日) 晴、夕方から曇り

午前中、靑戸の服部さん宅に、お借りした本をとどける。その足で、秋葉原に行き、ブックオフを見たけれど、一册、塩見鮮一郎著 『江戸の非人頭 車善七』(河出文庫) を求めただけだつた。

昨夜から今朝にかけて、柴田錬三郎著 『最後の勝利者(下)』 を読み上げてしまつた。おもしろかつた。といふことで、同じ秀吉の朝鮮出兵の時代を背景とした、飯嶋和一著 『星夜航行』 をよみはじめる。

 

『星夜航行』内容:その男は決して屈しなかった。人が一生に一度出会えるかどうかの大傑作。徳川家に取り立てられるも、罪なくして徳川家を追われた沢瀬甚五郎は堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。海外交易の隆盛、秀吉の天下統一の激動の時代の波に飲まれ、やがて朝鮮出兵の暴挙が甚五郎の身にも襲いかかる。史料の中に埋もれていた実在の人物を掘り起こし、刊行までに九年の歳月を費やした著者最高傑作の誕生。