月廿一日(火)舊六月朔日(乙丑・朔・土用の丑) 曇天

 

今日は通院日。ぼくの貴重な「公務」であり、當然お樂しみつき! 

外來入館のチェックと受付につづいて、血液檢査と心電圖。その心電圖の檢査が、けふは受付直後、まだ息もととのふ間もなく行つたので心配だつたけれど、檢査結果はいつもより良いといふ。またBNP値が、五月には五六二・五あつたのが(基準範圍の上限は一八・四)、一五〇以上も下がつて四〇九・七になつてゐたのには驚いた! 先月いただいたクスリの効果だらう。UA値がちよいと高く、K(カリウム)値が低いほかは、中性脂肪もコレステロールも問題なし。ただ、日ごろの體重・體温・血壓・酸素量を傳へ、自分では現在微妙なバランスを保つて生活してゐる感じですと話したら、先生はぼくの顔を見てから、さうですねと肯定され、あらためて氣をつけて日々をすごしていかなければならないと自戒する。

しかし、今日は土用丑の日、病院のとなりの〈うなぎの本丸〉を訪ねたところ、すでに行列ができてゐたので、急遽、神保町の〈かねいち〉さんまで足をのばして鰻重をいただく。

さらに今日は、町田の〈柿島屋〉を訪ねる豫定で、古書店をひやかしたあと、半藏門線と千代田線、それに代々木上原乘り換へ小田急線で町田へ。町田は新宿と横浜の交差點、しかも若者がひしめいてゐるので要注意と心して向かつたが、いつもの繁華街の人出がうそのやうにまばら。ブックオフをのぞいたあと、四時過ぎに店に入ることができた。

四ヶ月ぶりである。その時も大相撲が行はれてゐたが、今日もお客はまばら、まだまだお客はもどつてゐないやう。馬刺をたつぷりいただき、とにかく大滿足の一日であつた。

今日の歩數は、八五二〇歩。

 

また以下は、今日の収穫。

丸谷才一著 『快楽としてのミステリー』 (ちくま文庫)

橋本 治著 『双調 平家物語 十五 源氏の巻(承前)落日の卷』(中公文庫)

『北條五代記』 (雄山閣文庫) 

『東海道名所記・竹齋』 (雄山閣文庫)

 

 


 

 

七月廿二日(水)舊六月二日(丙寅・大暑) 雨降つたりやんだり

 

歩きすぎたか、食ひすぎたか、調子がくるつたやうで、終日橫になる。

昨日の外出にさいして、永瀬隼介著 『霧島から来た刑事』 を持つてでて、今日もよみすすんだけれど、三分の二まで讀んでゐたのに放棄した。内容は、

「鹿児島県警の元刑事・古賀正之の元に一本の電話が入る。息子の武が消息を絶ったという。武は警視庁組織犯罪対策部の刑事だが、なぜ? 妻の心配を受け、正之は東京に向かう。武の失踪に関わって浮かび上がってきたのが、日本一の武闘派組織『桐生連合』の名だった。慣れない東京で元刑事の不器用な『捜査』が始まった―。号泣必至のラストが待つ著者渾身の力作」

といふもので、期待したのだけれど、その「妻」も上京して捜査に加はるといふ、緊張感に缺けた、といふか現実離れした展開になつて來たので、これも放り出してしまつた。

それで、うとうとしながらも、『源氏物語〈藤裏葉〉』 をよみすすむ。

また、『春記』 と 『平家物語』 の準備として讀もうとして探し出した、坂本賞三著 『藤原賴通の時代 摂関政治から院政へ』(平凡社選書) を讀みはじめたが、だいぶ専門的でむずかしい。他に、橋本義彦著 『貴族の世紀(日本の歴史文庫5)』(講談社文庫) も見つかつたので、參考にしたい。

 

 

七月廿三日(木)舊六月三日(丁卯) 雨

 

〈藤裏葉〉繼讀。思ひ思はれてゐた夕霧と雲居雁がどうにか結ばれたといふところ。ただ、その結ばれたひと夜の情景が面白い。

 

宰相中將(夕霧)はかうした立場を與へられるに至つた夢のやうな運命の變はりやうにも自己の優越を感じた。雲井の雁はすつかり恥づかしがつてゐるのであつたが、別れた時に比べて更に美しい貴女になつてゐた。

「みじめな失戀者で終らなければならなかつた私が、かうして許しを受けてあなたの良人になり得たのは、あなたに對する熱誠がしからしめたのですよ。だのにあなたは無關心にひややかにしておいでになる」

と男は恨んだ。「(中略) 長い年月に堆積した苦惱と、今夜の酒の酔で私はもう何もわからなくなつた」

と酔に託して帳臺の内の人になつた。宰相中將は夜の明けるのも氣がつかない長寢をしてゐた。女房達が氣を揉んでゐるのを見て、大臣(内大臣)は、

「得意になつた朝寢だね」と云つてゐた。そしてすつかり明るくなつてから源中將は歸つて行つた。この中將の寢起き姿を見た人は美しく思つたことであらう。(與謝野晶子譯)

 

それで、「後朝(きぬぎぬ)の文」となるのだが、お二人さん、「帳臺の内」でどのやうな夜をすごしたのか、「長寢」をしてしまつたほどのことが行はれた、その樣子をもつと詳しく書いてほしかつた!

 

 

七月廿四日(金)舊六月四日(戊辰) 曇天

 

妻が、昨日、ぶつけた新車の後部の部品を取り替へに自動車屋に行き、そこで待たされた二時間で讀んでしまつたのよ、と言つて、本を見せてくれた。村上陽一郎著 『死ねない時代の哲学』 といふ、お花茶屋圖書館から借りてきた新書本である。

妻によれば、わたしたちがいつも話題にしてゐることが書かれてゐるだけよ、といふのだけれども、すすめられたので讀んでみた。

内容は・・・「細菌やウイルスに突然、命を奪われる時代が終わり、有数の長寿社会が実現したいま、歴史上はじめて、一人ひとりが自分の人生の終わり方を考えざるをえなくなった。死生観、安楽死、尊厳死、終末期医療…科学哲学の泰斗が示した、死を準備するために考えておくべきこと」

とあるが、わかりやすく言へば、「細菌やウイルスの攻撃によって 『理不尽に』 命を奪われる時代から脱して、老化によるさまざまな機能の劣化によって 『必然的な、あるいは自然的な死』 を迎えるという流れにようやくたどり着いたのが、いまの状況だと言うことも出来ます。理不尽な死からようやく免れたわたしたちが直面しているのが、今の、『なかなか死ねない』 時代なのです」

もつとも、本書は、この二月に出版され、現在のコロナ禍については觸れてゐないので、そのつもりで讀めば不自然ではない。

 

 

七月廿五日(土)舊六月五日(己巳) 雨

 

終日讀書。〈藤裏葉〉 と 『死ねない時代の哲学』 をよみすすむ。

 

「毛倉野日記(五十一)一九九八年六月」 寫し終る。

 

 

 

七月一日~卅一日 「讀書の旅」 ・・・』は和本及び變體假名・漢文)

 

二日 若松英輔著 『悲しみの秘儀』 (文春文庫)

四日 藤原伊織著 『てのひらの闇』 (文春文庫)

七日 山口博著 『王朝貴族物語 古代エリートの日常生活』 (講談社現代新書)

十日 藤原伊織著 『名残り火 てのひらの闇Ⅱ』 (文春文庫)

十二日 藤原伊織著 『テロリストのパラソル』 (文春文庫)

十二日 紫式部著 『源氏物語三十二〈梅枝〉』 (靑表紙本 新典社)

十四日 藤原伊織著 『雪が降る』 (講談社文庫)

十五日 藤原伊織著 『ダナエ』 (文春文庫)

十八日 藤原伊織著 『シリウスの道(上)』 (文春文庫)

十八日 藤原伊織著 『シリウスの道(下)』 (文春文庫)

十九日 森 詠著 『ソトゴト 公安刑事』 (祥伝社文庫)