六月(水無月)一日(水) 舊暦五月三日(乙酉) くもり

面白い本に出會ふと生活が單調になる。『ミレニアム』(ハヤカワ文庫) をよみはじめたら時間が飛ぶやうにすぎてゆく。ひるもよるもない。猫たちに食事をだしても自分の食事は忘れてしまふ。夕方には 『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 上』 を讀了。三部作さいごの下にはいる。

今日はまた “オーマイパパ Oh My Papa” 五人の歌手の歌を聽きくらべた。よくきくと歌手によつて歌詞が多少ことなつてゐる。いづれにせよ、歌はうとするととてもむずかしい曲だ。

 

六月二日(木) 舊暦五月四日(丙戌) 晴

『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 下』 を讀了。これで三部作すべてをよんだが、もうすごいとしか言ひやうがない。面白さを通りこしてハラハラドキドキの連續だつた。

つづいて、妻から、圖書館からかりてきてよみ終はつたばかりの、柳田由紀子 『宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧』(集英社インターナショナル) といふぶ厚い本をよめとすすめられたけれども、少しよんでやめた。

それにたいして、五木寛之の 『さかしまに』(文春文庫) をよみだしたらやめられなくなつた。

 

六月三日(金) 舊暦五月五日(丁亥) 晴のち雨一時雷

日本橋の齒科に通院。順調に治療がすすむ。ありがたい。

高島屋のメガネ賣場によつて鼈甲の眼鏡を修理に出し、値段が張るだけであまりおいしくない食事をしてから、神保町に行き、古書會館の古本市を訪ねた。今日は文庫本がほとんど見られず、唐木順三の 『禅と自然』(法蔵選書) と保田與重郎の 『現代畸人傳』(新潮社) の二册の單行本をもとめてしまつた。外にでると雨はやんでゐたが、歩くのがつらくなり、神保町驛までどうやらたどりつき、半藏門線と東武、それに京成を乘り繼いで歸宅した。

歸宅後猫たちとすごし、夕食はレバーと酢だこ、おいしくいただいた。

夜、五木寛之の 『さかしまに』(文春文庫) 讀了。『さかしまに』 は、「昭和一〇年代の前衛俳壇に光芒を曳いた鬼才はなぜ歴史の闇にきえたのか?」 といふ内容で、短編ながらじつによみごたへがあつた。

今日の歩數・・・五八二〇歩 

 

六月四日(土) 舊暦五月六日(戊子) 晴

巖谷大四 『懐しき文士たち 大正篇』(文春文庫) 讀了。面白かつた。明治天皇崩御からはじまる 「第一部 明治残影」。漱石死後の 「第二部 文芸開華」。そして芥川龍之介の死で終はる 「第三部 大正挽歌」。まさに「文壇の開落栄枯」を描いて興味がつきなかつた。これもぼくの讀書の一テーマである《文人たちの回想録》の一册だが、昭和篇と戰後篇もあるといふ。ぜひよんでみたい。

また、毎夜數話づつよんできた 蒲松齢・増田渉譯 『聊齋志異 中國千夜一夜物語』 (角川文庫 舊字舊假名) 讀了。

今夜もまた “オーマイパパ Oh My Papa” をきいたけれど、キャバレーで軍服姿でうたふJim Nabors の映畫の一場面と思はれる歌聲がいい。涙をながして聞きほれるギャングの親分ふうの場面もいい。 

 

六月五日(日) 舊暦五月七日(己丑) くもり一時雨

今日は不調。血壓が低くてだるかつた。體重も減つてしまつた。鹽分をとらないやうに食べる量を少なくしてゐるからか、鹽分が少ないために美味しくないから食べないのか、まあ食欲がないことにはかはりない。

 

六月六日(月) 舊暦五月八日(庚寅・芒種) 雨

肌寒い一日。今日東京地方が梅雨入りしたといふ。

今東光 『東光金蘭帖』(中公文庫) 讀了。「金蘭」とは、「親しく固い交わり」のことのやうだが、まあ東光さんの交遊録といつたところか。川端康成と特に親しかつたとは知らなかつた。

 

六月七日(火) 舊暦五月九日(辛卯・上弦) 曇天のち雨

西新橋の慈惠大學病院循環器内科に通院。今日は採血のために一時間も待たされた。先月にまさる混みやうだつた。しかし檢査の結果、値はどれもこれも良好で、ぼくの體調からすれば違和感をおぼえるくらゐ! 

ところで、心電圖の檢査ベッドに横たはらうとしたら、檢査技師の女性(おばさん)が、「あら、中村さん髪を切つたのね」 と聲をかけてきた。このかたとはときどきではあつたけれど、檢査のときにあふので顔なじみではあつた。それにしても相手から髪を切つたのねなんて言はれたのははじめてである。ちよいとびつくり。

歸路、今日も神谷町驛まで歩き、途中のそば屋で晝食。日比谷線で上野、京成に乘り繼いで歸宅する。堀切菖蒲園驛では、先月開店した赤札堂のダイソーに寄つてみた。

朝、昨日注文した、岡本綺堂の 『中国怪奇小説集 新装版』(光文社文庫) がとどいたので持つて出て、よみはじめたところ面白い。まあ、『捜神記』 や 『剪燈新話』、『聊齋志異』、それに 『唐宋傳奇集』 などの中國の怪談話からの抜粋だけど、わかりやすい。 

今日の歩數・・・五四二〇歩 

 

六月八日(水) 舊暦五月十日(壬辰) 曇天

妻が檢査のために病院へ出かけ、ぼくは母を氣にしながら終日讀書。

ちよいと氣分をかへてよみはじめた縄田一男編 『志に死す 人情時代小説傑作選』(新潮文庫) 一氣に讀了。なかでも木枯し紋次郎が久しぶりだつた。

大村彦次郎 『文壇うたかた物語』(ちくま文庫) をよみはじめてゐたけれど、今日とどいた巖谷大四 『懐しき文士たち 昭和篇』(文春文庫) のはうが面白くてとまらなくなつた。大正篇につづいて、芥川龍之介の自殺からである。

それで、處分しないでおいた芥川龍之介の奥さんの 『追想 芥川龍之介』(中公文庫) を出してきてよんでみた。その内容は・・・「十八歳で芥川に嫁し、昭和二年七月、龍之介自殺の日まで、わずか十年の結婚生活の中に、日々深まる夫の苦悩に心を痛めつつも、優しい気配りを絶やすことのなかった夫人が、去りいく年月の足音を愛惜しつつ、陰影豊かな、抑制のきいた美しい語り口で物語る追想録」。

 

六月九日(木) 舊暦五月十一日(癸巳) 曇天のち晴

血壓がひくいせいか、今日も寢たり起きたり。

芥川文・中野妙子記 『追想 芥川龍之介』(中公文庫) につづいて、坂本一敏著 『芥川龍之介と上総一ノ宮』(緑の笛豆本208集) 讀了。

後者は、「芥川にとって一宮は、初恋の人吉田弥生さんとの悲恋の苦悩を親友に打ち明け、またその恋文をしたためたところでもあり、そして彼の良き妻となった文子さんへ初めて求婚の手紙を書いた土地でもあつた」といふ、興味深い内容だつた。また、「全国ではじめての芥川文学碑である」 《芥川龍之介愛の碑》 が国民宿舎「一宮荘」の玄関の前に立つてゐるといふので、訪ねてみたい氣がした。

つづいて、『懐しき文士たち 昭和篇』 と岡本綺堂の 『中国怪奇小説集』 をよみすすむ。『懐しき文士たち』 はまるで文壇ゴシップ集のやうでおもしろい。それにしてもみな若くして亡くなつてゐる。芥川龍之介は三十五歳、梶井基次郎は三十一歳、立原道造にいたつては二十五歳である! 

 

六月十日(金) 舊暦五月十二日(甲午) 晴のち曇天

日本橋の齒科に通院。順調に治療がすすむ。新しい入れ齒が待ち遠しい。

今日は、東京古書會館の古本市に直行。収獲は、なによりも和本の 北村季吟 『湖月抄』 の 〈はし姫〉 〈しいが本〉 〈あげまき〉、それに 『雲隠説』。かうなると、よみ殘してゐる宇治十帖をよまうといふ氣になつてくる。

また、以前に求めた同じく和本の 無住 『沙石集』 十卷本の缺けてゐた一册 『沙石集 二』 が見つかり、これまた僥倖と胸がふるえる。

晝食は、マジカレーの特製ビーフカレー。首筋の痛みがとれないので早々に歸宅する。 

今日の歩數・・・五八〇〇歩

 


 六月十一日(土) 舊暦五月十三日(乙未) くもり

昨夜、巖谷大四 『懐しき文士たち 昭和篇』(文春文庫) 讀了。

つづいて、昨日神保町のワゴンの中からみつけた、黒川博行 『熔果』(新潮社) をよみはじめた。これはまだ文庫化されてゐない最新刊であるが、よみはじめてみたら、〈堀内・伊達シリーズ〉 の第四册目。ところが、文庫になつてゐた第三册目の 『果鋭』(幻冬舎文庫) をよんでゐないことに氣づき、前後するけれども次によもうと思ふ。

きょうはまたちかごろにない不調で、起きることができなかつた。

 

六月十二日(日) 舊暦五月十四日(丙申) くもり一時小雨

黒川博行 『熔果』(新潮社)、「元刑事コンビが爆走する、痛快ノンストップ・クライム・サスペンス」 讀了。つづいて、『果鋭』(幻冬舎文庫) をよみはじめる。

 

六月十三日(月) 舊暦五月十五日(丁酉) 晴のちくもり

黒川博行 『果鋭』(幻冬舎文庫)、〈堀内・伊達シリーズ〉 第三彈、「元刑事のワルでタフな名コンビがクズどもを蹴散らす!」 一氣に讀了。 

 

六月十四日(火) 舊暦五月十六日(戊戌・滿月) くもり

やつと外出ができた。古本と旨いものといふニンジンへの誘惑より、寢てゐるはうがまさりつつある。そこをどうにか克服して出かけられたのはいいが、南柏驛で人身事故があり、豫定が狂つてしまつた。南柏驛前の古本市の次に訪ねようとした柏へはおほはばにおくれ、といつても氣持ちのもんだいだけだが、お晝を例の担々麺に變更、太平書林を訪ねた。

次いで、千代田線で新御茶ノ水驛に直行し、御茶ノ水ソラシティプラザで開催中の古本市を見る。ほとんど期待してゐなかつたのに、さういふときにかぎつて三か所それぞれよみたい文庫本があれこれ目について、歸りは重い思ひをして歩かなければならなかつた。

早めの夕食は上野で、旨いもののひとつ、生かきとまぐろ三貫盛りをいただいて歸路についた。

今日の収獲の主なものは、宮崎市定 『隋の煬帝』(中公文庫)、澤田瑞穂 『鬼趣談義 中国幽鬼の世界』(中公文庫)、羅貫中・佐藤春夫訳 『平妖伝 上下』(ちくま文庫)、安岡章太郎 『私説聊斎志異』(講談社文庫) あたりだらうか。

昨夜、毎夜數篇づつよみすすんでゐた 吉川幸次郎譯 『唐宋傳奇集』(弘文堂 世界文庫) 讀了。物語としては面白いやうなのだが、譯文がこなれてゐない感じがする。

今日の歩數・・・六〇〇〇歩ちやうど

 

六月十五日(水) 舊暦五月十七日(己亥) くもり一時雨

猫たちを抱いてあげるのはいいが、抜けた毛がわづらはしい。

昨夜、巖谷大四 『懐しき文士たち 戦後篇』(文春文庫) 讀了。戰爭が終つてから、川端康成の自殺まで。とくに、三島由紀夫の自殺については、その日ぼくが深川の保育園でアルバイトをしてゐたときに聞いて驚いたことを思ひ出した。讀んでゐてあきないし面白かつた。

つづいて、昨日求めた、安岡章太郎 『私説聊斎志異』(講談社文庫) をよみはじめたが、これまた面白くて、一日中よみふけつた。 

今日の寫眞・・・柏、天外天の担々麺 と 今日のデザート(と母) 


六月十六日(木) 舊暦五月十八日(庚子) くもり

檢査のために出かけた妻が、ぼくの懷中時計オメガの提げ紐を買つてきてくれた。このオメガは、心臟の手術が終はつたころに妻がプレゼントしてくれたもので、しまい込んでおいたときもあつたが、かれこれ四十年以上使つてゐる。

安岡章太郎 『私説聊斎志異』(講談社文庫) 讀了。

内容・・・官吏の登竜門である科挙の試験に生涯落第し続けて、その鬱屈をバネに幻想怪異譚『聊斎志異』16巻を書いた、清代の蒲松齢。著者・安岡章太郎は、己れの屈折した戦時下体験をこの作者に重ね合わせつつ、回想小説風に筆を進める。時代と社会と個人の根っこの関係を自在に描いて、人間存在の不可思議な面白さを生きいき剔出する。

 

六月十七日(金) 舊暦五月十九日(辛丑) 晴

今日も日本橋の齒科に通院。治療は順調であつたが、豫定外の齒に異常がみとめられたので、急遽治療にかかる。

金曜日は、東京古書會館の古本市。今週は「新興展」で、和本がほとんどだつた。その一册、『空也堂黄金の瓢子』 といふたつた七折りの和本を求めた。 

晝は成光さんのラーメン、夕食は町田まで遠征して、久しぶりに柿島屋の馬刺しをいただいた。


六月十八日(土) 舊暦五月廿日(壬寅) 曇天のち一時雨

村彦次郎 『文壇うたかた物語』(ちくま文庫) 讀了。

 

六月十九日(日) 舊暦五月廿一日(癸卯)  くもり時々晴晴

今日一日血壓が極端に低く、起きてはゐられなかつた。

岡本綺堂 『中国怪奇小説集 新装版』 (光文社文庫) 讀了。ひきつづいて同じ岡本綺堂の 『青蛙堂鬼談』(角川文庫)、それに、久しぶりに 胡桃沢耕史の 『砂の嵐』(光文社文庫) をよみはじめる。胡桃沢耕史は 『天山を超えて』 が最高だが、總じて大陸ものは面白い。『砂の嵐』 はこれで三回目になる。

夜、和本の 『空也堂黄金の瓢子』 をよむ。よめても意味が通じないところが多々。どうも歌の文句のやうである。

*懷中時計オメガの提げ紐 と 今日のデザート  


六月廿日(月) 舊暦五月廿二日(甲辰) くもり時々晴 

胡桃沢耕史 『砂の嵐 上』(光文社文庫) 讀了。下にはいる。當時の軍部にたいする批判が小氣味いい。 

 

六月廿一日(火) 舊暦五月廿三日(乙巳・夏至・下弦) くもり夕方雨

マキさんと築地で待ち合はせ、すしざんまいでにぎりとあさりの味噌汁をいただく。今回は、手術後のリハビリ中のハッさん不參加。次回は三人で會食できることを願ふ。

胡桃沢耕史 『砂の嵐 下』(光文社文庫) 讀了。内容・・・“ソビエト潜入”の密命を受けた大日本帝国陸軍参謀樋口大尉。彼は、林清ことリンチンをガイドに大陸の奥深くへと入りこんだ。そして、ついに、ソビエトの対日宣戦布告の情報をつかんだ二人は、北京の司令部へと急ぐ。直木賞受賞作の原点ともいえる第二次大戦時の中央アジア。これを舞台に展開する雄大なロマン。

つづいて、といふか他の併讀中の本に加へて、森外の 『澀江抽齋』 を讀みはじめる。切つ掛けは石川淳の 『森外』 の冒頭をよんだからなのだが、『澀江抽齋』 のどこが外の最高傑作なのか、よみはじめるとわかつてきた。面白い。といふかぼくの讀書にたいする好奇心と共鳴するのだ。探偵小説のやう。

内容・・・渋江抽斎(180558)は弘前の医官で考証学者であった。「武鑑」収集の途上で抽斎の名に遭遇し、心を惹かれた鴎外は、その事跡から交友関係、趣味、性格、家庭生活、子孫、親戚にいたるまでを克明に調べ、生きいきと描きだす。抽斎への熱い思いを淡々と記す鴎外の文章は見事というほかない。鴎外史伝ものの代表作。

今日の歩數・・・四一〇〇歩

 

六月廿二日(水) 舊暦五月廿四日(丙午) 晴

午前中、慈惠大學病院の循環器外來に行き、先日から飲みはじめたミネラルのサプリメントを飲みつづけていいものかどうかを聞いた。成分表によると、なかにクロレラがはいつてゐることに氣づいたからだが、藥劑部に問ひ合はせてくれた結果、やはりいけないといふことが判明。ざんねんだけど今後飲まないことにする。

三田線で三田驛乘り換へ、京急で品川驛。始發の常磐線で終點の土浦驛に直行、まづは驛前の“小松屋”さんでうな重をいただいた。それから古本市を心置きなくみてまはり、文庫本數册とこれまた貴重なご本をゲットできた。とくに、マーテルリンク 『貧者の寶』(新潮文庫) が掘出し物かもしれない。

歸りは、日暮里驛經由京成で堀切菖蒲園驛、歩いて歸る途中の “大八元”にて、焼きそばを注文し、持つて歸る。コロナがはじまる前から店を閉めてゐたから、數年ぶりの焼きそばだ。これをいただける日を夢にまでみたといつても過言ではない。

移動の車中、『澀江抽齋』 をよみつづける。面白い。

今日の歩數・・・五九五〇歩 

*“小松屋”さんの鰻重と“大八元”のソース焼きそば 


六月廿三日(木) 舊暦五月廿五日(丁未) 曇天

終日讀書。

 

六月廿四日(金) 舊暦五月廿六日(戊申) 晴

今日も日本橋の齒科に通院。豫定外の齒の治療の處置もすんで順調にすすむ。

金曜日は、東京古書會館の古本市。今週は「ぐろりあ会」、ただ體調がすぐれないせいか一册も目にとまるものはなかつた。

晝は、“はちまき”で久しぶりに天丼をいただいたけれど、ご飯はほとんど殘してしまつた。それで、タクシーで上野まで行き、京成の始發で歸路に着く。

夜、森の 『澀江抽齋』(『鴎外選集 第六卷 史伝一』所収、岩波書店) 讀了。面白かつた。謎解きの面白さがある。つづいて、『伊澤蘭軒』 を讀みはじめる。すると、冒頭に賴山陽のことがでてきたので、中村眞一郎の 『賴山陽とその時代』(中公文庫) と 見延典子の 『賴山陽』(徳間文庫) をだしてきてちらちらよんでしまつた。こちらもぼくの讀書計畫中の書であるが、もうすこし我慢したい。

今日の歩數・・・四五一〇歩

 

六月廿五日(土) 舊暦五月廿七日(己酉) 晴、猛暑

血壓が低くて、讀書もはかどらず。外のはうは根氣が要るので、つい胡桃沢耕史の 『旅券のない旅』(講談社文庫) をよみだしてしまつた。これも三度めだが、なにしろ胡桃沢耕史の文章がうまい。すらりすらりその世界に引き込んでくれる。

ところで、考へてみたら、森銑三さんの人物研究や逸話集は、森外の史傳とよく似てゐる。むろん、森外を尊敬する森銑三さんだからだらうが、外のやうな謎解きの奥深さはないが、それはそれで面白い。

午後、今日も純子さん來りて、整體をほどこしてくださる。せつかくすすめてくださつたミネラルのサプリメントが無駄になつたことをおつたへした。

 

六月廿六日(日) 舊暦五月廿八日(庚戌) 晴、今日も猛暑

ますます體重がおちてきた。血壓もあひかはらず低い。食欲がおちてくるはづだ。

胡桃沢耕史の 『旅券のない旅』(講談社文庫) 一氣に讀了。よみだしたらとまらないのが胡桃沢耕史の大陸ものだ。つづいて、『六十年目の密使』 と思つたが、『旅券のない旅』 と舞臺がほど近い「沿海州」ものの、アルセーニエフ著・長谷川四郎譯 『デルスウ・ウザーラ 沿海州探検行』(東洋文庫) をよみはじめてしまつた。これは黒澤明監督によつて映畫化されてゐる。

内容・・・今世紀初め、当時ロシアにとって地図上の空白地帯だったシホテ・アリニ(沿海州)地方の地図製作の命を政府から受けたロシア人探検家アルセーニエフは、密林のなかで出会った原住民の猟師デルスウ・ウザーラに強くひきつけられ、ガイドとして同行する。シベリアの大自然のなかで獣も鳥も魚も、密林の生き物たちすべてを、ひとしく「ヒト()」とみなして共棲するデルスウに、アルセーニエフは高貴な人間性をみいだし、深い畏敬と愛情をこめてデルスーを活写する。

 

六月廿七日(月) 舊暦五月廿九日(辛亥) 晴、今日も猛暑

梅雨があけたといふ。最短の梅雨だつたやうで、すでに眞夏の到來だ。

『伊澤蘭軒』 と 『デルスウ・ウザーラ 沿海州探検行』 を交互によみすすむ。 

 

六月廿八日(火) 舊暦五月卅日(壬子) 晴、猛暑

今日は、ムズカシイ病氣から回復されたヒデコさんをお見舞ひがてら、シミズくん夫妻、マリコさんとぼくとで成田驛に集合し、レストランとヒデコさんの自宅にて、食べて、しやべつて、樂しいひとときを送つてきた。まるで、明學の同窓會のやうだつた。

いい汗を大量にかいたためか、歸宅後調子よかつた。

今日の歩數・・・二八九〇歩

 

六月廿九日(水) 舊暦六月一日(癸丑・新月) 晴、猛暑

のら猫のブンが死んだ。死にさうだつたのを介抱して四か月。妻がとことん世話をし、何度か病院にもつれてゆき、一事よくなつたのだが、今朝、ちよいと目をはなしたすきに狭い土間におりて死んでゐた。黑猫のブンは、コヤタとモモの三きようだいのまんなか。兄と妹はずぶといのにけつこう繊細、いつのまにかゐなくなつてしまつたのが、歸つてきたと思つたら、がりがりにやせて、すでに死相があらはれてゐた。でも、妻に抱かれて最期は幸せな日々だつたとおもふ。 

寫眞は、二〇一五年四月と七月。三兄弟どちらも左よりブン、モモ、コヤタ。はなれてゐるのは母親と思はれる。のら猫を世話しはじめたころだ。といふより、この親が、出してあげたエサを自分は食べないで、持ち歸るあとをつけてみたら、空き家の床下に、生まれたてのこの三匹がゐたのだつた。そのときはがりがりにやせてゐたのに、この豐滿な姿! これがのら猫に關心をもつたきつかけだつた。


 

六月卅日(木) 舊暦六月二日(甲寅) 晴、猛暑

今日も猛暑! 

昨夜、岡本綺堂の 『青蛙堂鬼談』(角川文庫) 讀了。

『伊澤蘭軒』 をよみはじめて、賴山陽と蘭軒がほぼ同時代を生きてゐたことがわかり、またさまざまな學者や文人をとほして關はりがあつたことも明らかになつてきた。伊澤蘭軒についてはぼくはまつたくの無知だつたので、外堀を埋めるつもりで賴山陽についてもうすこし理解をふかめたい。

 

*一時預かつた、捨てられてゐた子猫たち。今、どうしてゐるだらう?



 

 

六月一日~卅日 「讀書の旅」 ・・・』は和本及び變體假名・漢文)

 

一日 スティーグ・ラーソン 『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 上』 (ハヤカワ文庫)

二日 スティーグ・ラーソン 『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 下』 (ハヤカワ文庫)

三日 五木寛之の 『さかしまに』 (文春文庫)

四日 巖谷大四 『懐しき文士たち 大正篇』 (文春文庫)

同 蒲松齢・増田渉譯 『聊齋志異 中國千夜一夜物語』 (角川文庫 舊字舊假名) 

六日 今東光 『東光金蘭帖』 (中公文庫)

八日 縄田一男編 『志に死す 人情時代小説傑作選』 (新潮文庫)

九日 芥川文・中野妙子記 『追想 芥川龍之介』 (中公文庫)

同 坂本一敏著 『芥川龍之介と上総一ノ宮』 (緑の笛豆本208集)

十日 巖谷大四 『懐しき文士たち 昭和篇』 (文春文庫)

十二日 黒川博行 『熔果』 (新潮社)

十三日 黒川博行 『果鋭』 (幻冬舎文庫)

同 吉川幸次郎譯 『唐宋傳奇集』 (弘文堂 世界文庫 舊字舊假名)

十四日 巖谷大四 『懐しき文士たち 戦後篇』 (文春文庫)

十六日 安岡章太郎 『私説聊斎志異』 (講談社文庫)

十八日 大村彦次郎 『文壇うたかた物語』 (ちくま文庫)

十九日 岡本綺堂 『中国怪奇小説集 新装版』 (光文社文庫)

同 『空也堂黄金の瓢子』 (和本)

廿日 胡桃沢耕史 『砂の嵐 上』 (光文社文庫) 再々

廿一日 胡桃沢耕史 『砂の嵐 下』 (光文社文庫) 再々

廿四日 『澀江抽齋』 (『鴎外選集 第六卷 史伝一』所収、岩波書店)

廿六日 胡桃沢耕史 『旅券のない旅』 (講談社文庫)

廿九日 岡本綺堂 『青蛙堂鬼談』 (角川文庫)