三月六日(金)舊二月十二日(戊申) 晴

 

昨夜はついに徹夜してしまつた。佐々木 譲著 『密売人』 があまりのも面白くて寢つけなかつたのだ。第一彈につづく面白さであらうか。

  

今日は自動車運轉許證の更新に行つてきた。場所は、本所警察署。押上驛から歩いて五分ほど。受付して必要な書面に記入し、寫眞を撮つたらそれでおしまひ。三〇分ほどで終了した。問題は寫眞であつたが、前回の間の抜けたやうな寫眞にくらべたら、ぐつとましな顔であつた。また、目は裸眼でも通つてしまつた。

 

錦糸町驛からは総武線で御茶ノ水に行き、「文坂」をくだつて古書會館を訪ねる。金曜日は芋を洗ふやうな混雑なのだが、今日はがらがら、他の人と接觸しないでも十分に見て回ることができた。けれども、収穫は變體假名の二册 

井原西鶴等著 『虎渓の橋』(稀書複製会、米山堂) と 倉石梓著 『ある「旅日記」を読む』(むげん出版)。 

張り紙によると、三月、四月に豫定されてゐたいくつかの古本市が新型肺炎のために中止となつた。

 

晝は、駿河台下交差點角の〈小諸そば〉で、かきあげそばをいただき、ぶらぶらと散歩しながら次の二册を求めた。冷泉家時雨亭叢書のはうは、數十册出てゐて、除籍本とはいへ、すべて二〇〇圓~一〇〇〇圓。みなきれいで、「松坂大学図書館」とある。一九九九年發行の本だから、二十年間誰にも讀まれなかつたのだらう。ただ歌集が多くて、そのなかで 『源氏釈・源氏狹衣百番歌合』 だけを買ひ求めた。それが五〇〇圓(寫眞參照)。 

塩野七生著 『日本人へ 国家と歴史篇』 (文春新書) 

冷泉家時雨亭文庫編 『冷泉家時雨亭叢書 第四十二巻 源氏釈・源氏狹衣百番歌合』 (朝日新聞社)

 

註・・・冷泉家本 『源氏釈』 「源氏物語」最古の注釈書。世尊寺(藤原)伊行著。安元元年(一一七五年)頃成立。冷泉家時雨亭文庫の蔵書調査の中で見いだされた、鎌倉期の書写と見られる写本。宮内庁書陵部蔵本の祖本でありほぼ完本である。 

「源氏物語」の最初の注釈書として,以後の注釈研究に少なからぬ影響を与えた。内容は、「源氏物語」の本文中に引き歌、出典、故事などの注を書き入れたもので、のちに一巻にまとめられた。藤原定家の「奥入」など以後の注釈研究のもとになった。平安末期の「源氏物語」受容の実態を知るための資料としても貴重。 

 

さうさう、一誠堂書店さんの前で、顔なじみになつた店員さんと會つたので、例の南方熊楠が、死ぬ數日前に、「郵着したばかりの 『今昔物語集』 に署名し、(娘の)文枝に形見として与え」た、その本は、一誠堂さんから取り寄せた本だつたのですよ、と話したら、ご存じではなかつた。が、喜んでくださつた。

 

今日の歩數、七五八〇歩。 

 


 

 

三月七日(土)舊二月十三日(己酉) 曇天

 

今日は休息日。佐々木 譲著、北海道警シリーズ第六彈、『人質』 を讀む。 

 

 

三月八日(日)舊二月十四日(庚戌) 雨、寒い

 

『人質』 を讀んでゐたら、昨夜も徹夜しかねなかつたので、途中から 『源氏物語〈胡蝶〉』 を讀みはじめた。するとあつといふ間に寢入ることができた。 

それで日中、佐々木 譲著 『人質』 を讀了。つづいて、北海道警シリーズ第七彈、『憂いなき街』 に入る。まるで中毒のやうにやめられず。 

 

三月に豫定してゐた、明學同窓生五人での會食を、この新型肺炎騒ぎで延期することにして、みなさんに連絡した。まあ、恐れるほどのことはないと思ふけれど、みな高齢だし、念のため、騒ぎが落ち着いた頃に再度計畫することにした。 

 

 

三月九日(月)舊二月十五日(辛亥) 雨、寒い

 

昨夜も眠るために 『源氏物語〈胡蝶〉』 を讀んだ。すると、たぶんはじめて柏木が登場。頭中将(内大臣)の長男で、玉鬘とは母違ひの弟である。その玉鬘へ思ひをよせるひとりの男として登場といふわけだ。 

 

佐々木 譲著 『憂いなき街』、今回は、ジャズが通奏低音のごとく味はひを添へてゐて、しかも、今日のところは大サービス。主人公の刑事・佐伯が小島百合巡査部長と、津久井刑事がピアニストの女性と一夜をともにする、といふか、まあ大人の戀なのだが、ベッドをともにするといふ大盤振舞ひ! ところが、である。

 

 

三月十日(火)舊二月十六日(壬子・望) 雨

 

昨夜は、眠るために 『源氏物語〈胡蝶〉』 を讀まうとは思はず、外が白々と明けてくる頃まで、一氣に 『憂いなき街』 を讀み通す。面白かつた! つづいて 『真夏の雷管』 に入る。 

佐々木 譲のこの道警シリーズの特色は、オムニバス形式とでも言ふのだらうか、別々に起きた事件が、次第に關連してきて、収斂していくといふ筋である。第八彈、今のところ最後の作品にあたる 『真夏の雷管』 も同樣である。先が見えないけれど、別々の事件が詳細に描かれてゐるのでリアリティーがある。地圖も手放せない。 

 

 

三月一日~十日 「讀書の旅」 ・・・』は和本及び變體假名・漢文)

 

三月一日  佐々木 譲著 『警察庁から来た男』 (ハルキ文庫) 

三月三日  佐々木 譲著 『警官の紋章』 (ハルキ文庫) 

三月四日  佐々木 譲著 『巡査の休日』 (ハルキ文庫) 

三月六日  佐々木 譲著 『密売人』 (ハルキ文庫) 

三月七日  佐々木 譲著 『人質』 (ハルキ文庫) 

三月十日  佐々木 譲著 『憂いなき街』 (ハルキ文庫)