三月廿六日(木)舊三月三日(戊辰) 晴、暖かい

 

今日もおとなしく讀書。 

東京オリンピックが延期となり、コロナウイルスの感染もいよいよ本格化。ぼくも散歩をひかへなければなるまい。

 

森銑三著 『改訂・寫眞版 渡邊崋山』 讀了。努力して讀み通したけれど、はたして十分に讀み得たかといへばまだ消化不良のところがある。本書は、「長年にわたって著者が雜誌に発表された諸論考を纏められたもの」であり、その目次を記しておく。 

〈崋山の生涯・崋山とその母・崋山雑考・崋山の二十三四歳・心の掟に見えたる人々・崋山の四十歳前後(上下)・蛮社の獄・崋山の人物・崋山雜 

蠻社の獄なんて、まるで言掛りのやうなもので、それでなくとも困窮をきはめてゐた崋山にとつて降つて湧いた災難としか言ひ樣がなかつたであらう。崋山がどんな人物であり、平素どのやうに生きてゐたかを知れば知るほど、さう思ふ。先日掲げた文章をもう一度かみしめたい。 

「渡邊崋山の生涯と事績を、諸家の筆になる伝記を通して顧みるとき、私は常に一種の奇妙な苛立たしさと悔しさとに襲はれる。それは、崋山の同時代は、これほどの英才を遇するのに、どう考へてみても不当といふほかはない冷淡と非礼とを以てしたのではないかといふ、憤ろしい印象からくるものである」 

 

つづいて、眞山靑果の 『隨筆滝沢馬琴』 〈その第八〉の章を讀む。崋山について、馬琴は、交際はありながらも、崋山が冤罪で入牢したことや、自殺したことに關して、眞山靑果は、なぜか「哀惜の情、またその奇禍に關する憤激の心を見せていない」と論じ、それは馬琴が、幕府贔屓であり、「現在制度を讃美し、因襲固守」の人だつたからと述べてゐる。さもありなんと思つて本を閉じる。

 

さらに、山手樹一郎著 『崋山と長英』 (山手樹一郎長編時代小説全集・春陽堂) を讀もうと思ふ。カバーの袖には、作品案内として、「深刻な歴史小説には珍しい情味のある世界をきりひらいた代表作」とある。 

 

 

三月廿七日(金)舊三月四日(己巳) 曇天、晝から強風

 

今日も猫たちと戲れながら讀書。 

山手樹一郎著 『崋山と長英』 は、“獄中記”、“監送記”、“蟄居記”の三部から成つてゐる。第一部の“獄中記”は、高野長英が自首をしてからの獄中でのありさまが描かれ、二部は、處罰が決まつた崋山が、田原藩へ護送されるまでのあまりにも苛酷な待遇に關して。 

分かりやすくて面白いけれども、とても眞面目な内容である。渡邊崋山と高野長英がおかれた立場もわかれば、蠻社の獄の推移もよくわかる。要は、儒學の林家の血筋である妖怪・鳥居耀藏が仕掛けた蘭學(洋學)彈壓だつたのである。しかも花井虎一といふスパイを崋山のもとに送り込み、事件を捏造し、「崋山と長英」を抹殺することが目的だつたのである。 

物語仕立てにはなつてはゐても 「崋山と長英」 を知るにはもつてこいである。感動と憤りで胸がつまり、ところどころで涙がにじみ出てきた。

 

 

三月廿八日(土)舊三月五日(庚午) 曇天、氣温は高い

 

今日は土曜日。神保町と高圓寺、それに五反田のすべての古書會館で古本市が開催される豫定だが、さすがに行くのをやめた。コロナウイルスの感染者がこの二三日で急激に增えたからだ。呼吸困難の症状といふのは考へただけで恐ろしい。 

それで、今日も靜かに讀書。 

山手樹一郎著 『崋山と長英』 讀了。崋山の田原蟄居の生活を詳しく記してゐたが、その自殺についてはじつに淡々とした描き方だつた。そして、その後の樣子を、樣々な資料をもとにして、「付記」として書き足してゐる。讀みながら涙が出て仕方なかつた。 

文庫本なのに二段組み、二九五頁あつたので讀みでがあつた。 

 

 

三月廿九日(日)舊三月六日(辛未) 曇天、日中雪が降る。

 

今日は雪が降つた。指先が冷たい。暖房をつけて讀書。三匹の猫がそれぞれ可愛い。胸の中で寢入つてゐるグレイを見てゐたら、この子たちを殘しては先に逝けないと思つた。

 

佐々木 譲著 『犬どもの栄光』 讀了。一氣に讀んでしまつた。面白い。北海道の地圖をひろげて、主人公らの行動をたどれるのが樂しい。北方謙三の解説もよかつた。 

つづいて、『夜を急ぐ者よ』。一轉舞臺は、沖縄のやうだ。

 

今日、東京都で新たに六十八人の新型コロナウイルスへの感染を確認。一日での最多を更新。 

 

 

三月卅日(月)舊三月七日(壬申) 曇天

 

今日も讀書。 

新型コロナウイルスによる肺炎で、志村けんさん死去。七十歳だつた。 

 

 

三月卅一日(火)舊三月八日(癸酉) 曇天

 

佐々木 譲著 『夜を急ぐ者よ』 讀了。讀みはじめたら北方謙三を讀んでゐるやうな氣がした。これもまた、船戸与一の解説がいい。 

今月の讀書の旅は、佐々木 譲ではじまり佐々木 譲で終つた。

 

「毛倉野日記」、ここのところ手をつけてゐないが、内容が單調だといふこともある。いつそのこと、飛ばして、ラムとの出會ひあたりからはじめたらいいのかも知れない。一應準備してみよう。

 

今日は、東京都で新たに七十八人の新型コロナウイルスへの感染を確認。さらに一日での最多を更新。全国内では新たに計二五九人が判明といふ。 

 

夜、アマゾンで、”ラスト・ターゲット“ を見る。原題は「アメリカ人」。イタリアの田舎が舞臺の、わりと地味な、といふか、靜かな映畫であつた。

 

 

 

三月一日~卅一日 「讀書の旅」 ・・・』は和本及び變體假名・漢文)

 

三月一日 佐々木 譲著 『警察庁から来た男』 (ハルキ文庫) 

三月三日 佐々木 譲著 『警官の紋章』 (ハルキ文庫) 

三月四日 佐々木 譲著 『巡査の休日』 (ハルキ文庫) 

三月六日 佐々木 譲著 『密売人』 (ハルキ文庫) 

三月七日 佐々木 譲著 『人質』 (ハルキ文庫) 

三月十日 佐々木 譲著 『憂いなき街』 (ハルキ文庫) 

三月十二日 佐々木 譲著 『真夏の雷管』 (ハルキ文庫) 

三月十三日 今村翔吾著 『くらまし屋稼業』 (ハルキ文庫) 

三月十四日 森 詠著 『風神剣始末 走れ、半兵衛』 (実業之日本社文庫) 

三月十六日 森詠著 『双龍剣異聞 走れ、半兵衛〈二〉』 (実業之日本社文庫) 

三月十八日 森詠著 『吉野桜鬼剣 走れ、半兵衛〈三〉』 (実業之日本社文庫) 

三月廿一日 森詠著 『遠野魔斬剣 走れ、半兵衛〈四〉』 (実業之日本社文庫) 

三月廿一日 紫式部著 『源氏物語二十四〈胡蝶〉』 (靑表紙本 新典社) 

三月廿二日 渡邊崋山著 「愼機論」 (『日本の名著25 渡邊崋山・高野長英』 中央公論社 所収) 

三月廿二日 小堀桂一郎 「崋山とその時代」 (『日本の名著25 渡邊崋山・高野長英』 附録 中央公論社) 

三月廿六日 森銑三著 『改訂・寫眞版 渡邊崋山』 (創元社) 

三月廿六日 真山青果著 『隨筆滝沢馬琴』 (〈その第八〉・岩波文庫) 

三月廿八日 山手樹一郎著 『崋山と長英』 (山手樹一郎長編時代小説全集・春陽堂) 

三月廿九日 佐々木 譲著 『犬どもの栄光』 (集英社文庫) 

三月卅一日 佐々木 譲著 『夜を急ぐ者よ』 (集英社文庫)