正月十六日(月)癸卯(舊十二月十九日 晴

 

今日の讀書・・今日も寒い。いや冷えこむといふ言葉のはうがピッタリかも知れないほどでした。だから、暖かいモモタとココを抱きかかへながらの讀書でした。 

『一條攝政御集』 も數頁讀み進みましたが、『雷電本紀』 はさらに引き込まれて讀み進み、雷電が江戸に出るきつかけとなつた一揆の描寫には胸が痛くなるほどでした。 

芳賀登著 『百姓一揆』(潮新書) 卷末の〈百姓一揆年表〉によれば、「天明3年(1783年)9月20日~10月6日 浅間山噴火で飢渇の上野安中藩農民、信濃小諸、上田領内の世直し」 とあるのがこの一揆で、『武江年表』 には噴火のことしかありませんでしたが、『德川實記』 には、淺間山噴火から一揆の顛末まで記されてゐました。まづ、噴火の記事を寫しておきます。

 

「この月(七月)六日夜忽震動して、其山燃上り、熖燼天をこがし、砂礫を飛ばし、大石を迸すること夥し。また山の東方崩頽して泥濘を流出し、田はたを埋む。よりて信濃上野兩國の人民流亡し、あまさへ石にうたれ、砂にうづもれ、死するもの二萬餘人、牛馬はその數をしらず。」 

江戸にまで火山灰が降り注いだといふ、淺間山噴火による災害と飢饉、そしてそこで引き起こされた一揆については一連の出來事といつてもいいもので、その解明には、資料として買ひ込んでおいた、『日本庶民生活史料集成 第七卷 飢饉・悪疫』(三一書房) が役にたちました。

 

これには、「妙義山のすぐ麓にあった上野国甘楽郡菅原村の名主・長左衛門が記した、「天明三年卯六月 淺間山大焼一件記」 が収録されてゐて、雷電が遭遇した噴火と一揆の樣子が克明に描かれてゐます。 

解説には、「筆者(長左衛門)は、直接自身で関知したことと、噂とをはっきりと区別しており、回章の控えも正確に書留めている」とありますから、できればすべてに目を通したいのですが、「申上候」、「御座候」調ですから、すんなりと理解できる文章ではありません。それでもまあ、おや、と思つたところをいくつか書き出してみたいと思ひます。 

 

「   訴書 

乍恐以書付御訴申上候 

當村儀、昨七日の夜四ツ時前□□八日朝五ツ時過迠、淺間山焼石降田畑作物は□□の上、桑楮其外諸草木の葉迄一切無御座候。依之御訴申上候。以上 

天明三年卯七月八日 」 (□は蟲喰不明部分です) 

 

「   一札の事 

此度淺間山焼石砂降田畑山林共に荒申候に付、人馬夫食飼料無御座候。依之御傳馬役相勤り不申候。右に付、以一札御屆申候。以上 

卯七月十八日 」 

 

と、まあ、被害の状況を訴へ、かつ傳馬役免除の申請をしてゐるわけです。ところが、藩の役人たちからは梨のつぶて。さうかうするうちに、八月十五日、村の大杉に次のやうな「張紙」がなされてびつくりです。 

 

「   定 

來る廿日に、上臺萬石の御百姓中六尺の竹を以、そぎの川原(現在の富岡市曾木の鏑川の川原)え罷出人揃御座候得は、江戸表迄罷出申候。若不参の御村々御座候得は火をかけ、くろつちにやきはらい可申候。 

卯八月日           頭取   淺間山  

御村々衆中樣   」 

 

これは、一揆首謀者らの、一揆參加への強要であり脅しですが、參加者に、仕方なく加はつたといふ辯解の餘地を與へる文面のやうです。 

それで、一揆衆は江戸へは向かはず、「上田藩の穀留めや米穀商人をはじめとする亡者どもの買占め」を粉砕するための行進が開始されます。「宿場じゅうの米穀商を一軒残らず打ちこわし」ながら、中仙道を、板鼻、安中、松井田、坂本、碓氷峠は避けて入山峠越えで、沓掛、追分、岩村田、八幡、そこから小諸へと進みます。 

雷電は、小諸藩の藩兵として徴集され、そこで、一揆と遭遇しますが、小諸藩は一揆の目標が上田藩にあることを知り、もてなして通過させるのです。そのとき、雷電は、一揆衆の中に、知つた顔を發見して愕然とします。 

 

さて、上田藩では萬全の備へをもつて迎へ討ち、結局一揆はそこで潰えてしまうことになります。『德川實記』 によつて見てみます。

 

「九月の末十月のはじめは、信濃國小諸の邊を刧略(きょうりゃく)し、松平左衛門佐忠濟が所領上田城に押入らんとするよし聞えければ、忠濟が家人等兵器をもて待居たり。一揆等はかすめ取たる錦繡(きんしゅう)を剪て竿にかけ、旗幟のまねびして、上田の邊鄙にをし入ければ、忠濟が家人等このよし聞いて馳むかひ、かけ散じ、迯(にげ)るを追て數十人を生捕りければ、殘るもの等は四方へ迯散けり。これより一揆漸々鎭りぬ。」

 

いや、なにも鎭まつたわけではありません。金の亡者、無責任な權力者、仕事を果たさない役人がゐるところでは、一揆は、實はいつどこで起こつても不思議ではないとぼくは思ひます。こんなこと言へば、「共謀罪」で捕まるかも知れませんが、今のうちに言つておきませう! 

 

今日の寫眞・・今日のモモタと 『雷電本紀』。